458:木曽谷調査構想
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「ダンジョン内の植物には3つの種類があります。」
マリーは空中の仮想窓に簡単な表を投影する。
「まず、いわゆる『背景オブジェクト』としての樹木。つまり造花で、精巧なものから明らかなニセモノまでいろいろあります。次に、名無しダンジョンモンスターの樹木。見た目は普通の植物ですが、生物学的には生きておらず、ダンジョンのエネルギーで維持されています。これらは直接ダンジョンにより生成されており、基本的にはエネルギー効率は低くなります。」
「基本的に? 例外もあるわけか。」
「例えば『貯木場ダンジョン』みたいに、材木の生成が『本質』のダンジョンですね。このダンジョンで本が入手しやすいようなものです。」
「江戸、あるいは東京に対応する地域に貯木場ダンジョンは無いのか。」
「深川区の木場、行徳の新木場とも、対応するであろう場所に貯木場ダンジョンは見つかっていません。直接木材を産する貯木場、という形態が、感情エネルギーの収集を必要とするダンジョンに向かないためかもしれません。迷宮を探索させてその奥で木材を産する。というのなら得られるエネルギーも多そうですが、今度は運び出す問題が生じますね。」
異世界では城東区の南側は東京市飛行場で、新木場は無い。
「それで、最期が、普通の生きた植物。地上にあり、ダンジョンが水と養分の供給が出来るなら、比較的低コストで生産可能ですが、ダンジョンの特殊効果無しでは育つのに何十年も必要です。」
「伐採しても別にダンジョンは崩壊しないが、禿げ山になると。」
「はい。もっとも、例えば丹沢ヒルズだと森が無くなれば、蛭ヶ岳のヤマビルも生活出来なくなるでしょう。」
なお、蛭ヶ岳の山頂は冬に寒いためヤマビルは居ない。天狗にも寒すぎるが、彼らは山麓でヤマビルが活動する夏だけ山頂部の別荘に住む。
「対応する科の修羅がのさばる……卓越するダンジョンでは生育が早くなる。と。」
「はい。必要なのは杉や檜、つまり檜科ダンジョンですね。もっとも、ダンジョンの機能による促成栽培をやり過ぎると、年輪の間隔が広まったり形成されなかったりして強度が落ちる場合もあります。」
「万能とは行かないか。」
「はい。それで、50年後にはこのダンジョンで杉や檜を伐採するとして、それまでの間、増大する木材需要を満たすために、檜科ダンジョンを探し、可能なら手懐ける。確かに促成栽培は質が落ちる危険はありますが。」
「このダンジョンの影響圏半径内でダンジョン影響圏に組み込めない場所には、村かダンジョンがある。だったな。」
「今回は、森林ダンジョンがある可能性が高い、木曽谷を集中的に調査します。この世界の木曽谷は科の国の西、ダンジョン影響圏の端から100km程度から西に位置し、推定400km四方程度ですね。つまり100里四方ということです。」
マリーは簡略で不正確な地図を投影する。
「異世界では中山道は木曽谷ですが、この世界は地形が異なり、中山路は手前の谷となります。木曽谷に関する情報は不足していて、残念ながら、この地図も不正確ですね。」
「遠くて広いな。影響圏を広げて転送陣を作って乗り込む訳には行かないか。」
「現状では方法が分かりません。影響圏は広ければ広いだけいろいろ出来ます。それこそ世界全体が影響圏なら、時間は必要ですが転送陣でどこへでも行く事が出来ますね。」
「それでも3日必要か。」
「今だと木曽谷にたどり着くだけで3日必要です。」




