457:材木の栽培には何年も必要(続き)
【第三層群屋上庭園】
「ミント、杉や桧は50年、チーク材ならダンジョンの機能で苗を植えてから5年から10年です。苗作りに着手したのが2年秋で、今が5年夏なので3年弱ですが、成長状況から見て、あと3~4年程度でしょうか。」
「科が合っていれば、熱帯植物でも越冬も可能。か。」
「ダンジョン影響圏内だけですけどね。つまり芭蕉科ダンジョンがあればバナナが入手出来て生産出来るはずです。もっとも、このダンジョンは広いので南部は低緯度ですから、この世界が異世界より涼しいと言っても、バナナの苗があれば栽培可能でしょう。」
「問題はバナナが入手可能か。だな。」
「この世界に、異世界のどこまで対応した地域があるのか。ですね。異世界で台湾が日本領になったのは明治時代で、江戸時代の日本には含まれません。そして、このダンジョンでは台湾の図書館は複製召喚出来て、近隣のフィリピンや中華民国の図書館は入手出来ません。」
「図書館を複製召喚出来る範囲が対応しているなら、中華帝国も後清も大韓帝国も労農ロシアもこの世界には無いか。」
第二次世界大戦が無かった世界。後清は、別に滅びてからそう呼ばれている訳では無く、最初からそう自称している。満州国ではなくアメリカの影響が強い国。
「その辺は分かりませんし、今は確認しようがありませんね。バナナはさておき、まずは木材ですね。3年以上も解決していませんが。」
「側近書記殿、こればかりは自然の法則なので無茶は効きません。ダンジョン影響圏内なら図書室のある小学校を複製召喚出来ますが、さすがに影響圏外まではすぐには面倒は見られません。」
「数年以内に供給可能なのはチーク材だけですが、家具ならともかく建材としては、この世界では馴染みが無いですからね。やはり杉や檜を量産した方が喜ばれます。」
「半世紀必要なのは仕方ない。」
「今から檜科修羅のダンジョンを発見できれば10年に短縮できますから、これも五條に探して貰います。とはいえ、秋田杉・吉野杉・屋久杉とも対応する場所は遠いですね。手が届きうる場所は木曽檜や天竜杉あたりでしょうか。ダンジョンが見つかれば良いのですが。」
屋久杉は伐採禁止で倒木程度しか出荷されず、植林されているのは正確には「屋久島地杉」と言う。
「影響圏半径内なら、影響圏に組み込めない場所だけ探せば良いが、影響圏半径より外なので虱潰しに探さないとダンジョンは見つからない。」
「飛行機があれば、洞窟型はともかく、少なくとも地上にあるダンジョンは空中写真で確認できたのですが、ミントが役立たずの新幹線を勧めるから。」
「側近書記殿、このダンジョンの技術力では、飛行機も大型トレーラーも実用化出来ませんし、水が乏しいため船も制約されます。転送陣は高速ですが大量にダンジョンエネルギーを浪費しますから、長距離大量輸送には鉄道は最善の選択です。確かに、異世界日本では鉄道は1987年に全線廃線になりましたが、アメリカや欧州諸国では貨物列車が活躍しています。」
関東大震災後に国家予算の4年分(50億円)を投じて多数の100m道路を建設したため不十分とはいえ自動車の増加に耐えられたこと、第二次世界大戦が無くアメ車の輸入が続いたことにより、省線は廃線となった。
「木曽谷一帯と天竜区ダンジョンに冒険者を派遣して、木材が無いか確認が必要ですね。特に洞窟型ダンジョンの場合、遠くから存在が分かりませんし。」
「木曽谷は険しい山岳地帯で、天竜区は巨大ダンジョンなので、いずれも困難な仕事だ。」
「天竜区ダンジョンは涸れ川、麁玉川の流域に拡がり、長さ推定600~700km程度。半径100リーグ、480kmは越えていませんから、サブコアが必須の大きさでは無いとはいえ、奥まで調査するのは難しいでしょう。しかもドラゴンが居るそうですからね。確認はしていませんが。」
「ドラゴンの強さがどの程度かは不明だが、相手の固有法則によっては戦闘機すら無効の可能性もある。ドラゴンである以上『絶対倒せない』設定には出来ないはずだが、それこそ英雄が必須だったりすると難題だ。」
「天竜区は後回しにして、木曽谷に集中的に冒険者を派遣しましょう。冒険者寄場に依頼を出します。」




