453:ダンジョンマスターの養殖
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「マリーさん、ならば、殖やすというのは、どのような問題があるだろうか?」
「この場合の問題は、まず、一人前になるには何年も必要ということと、マスター資格の認証の問題です。」
「育つのに年数が必要か。」
「修羅なら、まだ後見がしっかりしていれば、人間の幼帝みたいな問題は起きにくいですが、それでも一人前になるのに何年も必要と言う問題はありますね。もっとも、新設ダンジョンのマスターでは無く、このダンジョンの運営を手伝って貰うのなら、繁殖した修羅は有用です。何より第二世代はシステム的な意味ではダンジョンに所属していないため、ダンジョンが感情エネルギーを入手出来ます。」
「修羅は、人間みたいに何とでも雑種を作るという訳には行かなかったな。」
「はい。ダンジョンモンスター同士、あるいはダンジョンモンスターと一般の修羅、一般の修羅同士で、同種または近縁種なら交配は可能です。例えば、真正ラベンダーのアンと広葉ラベンダーのレオノール博士の雑種はラヴァンディンとなり、赤紫蘇の蘇我さんと青シソの大場博士と荏胡麻の荏原博士は相互に交雑可能です。そうやって出来た種から植物を育て、ある程度成長したら十分なダンジョンエネルギーを注ぐことで修羅になりますね。一方、人間は、あれ全部生物学的には同じ種ですからね。しかも品種レベルでも犬猫や馬ほどにも分化していません。」
「人間に別の種は含まれないのか。」
「そもそも、種が違ったら人間ではありませんね。北京原人は畜生です。もし、どこかのダンジョンにエルフやドワーフが居たら畜生または外道でしょう。そういうダンジョンは知られていませんが。一方、ネアンデルタール人は現存人類と繁殖力のある雑種を作りますから同種で、つまり畜生道では無く人間道ということになります。」
「それで、修羅は畜生みたいに卵とか子供で生まれる訳では無かったな。」
「菊科は頭に目立つ花が咲き『頭花』として知られていますが、大抵の修羅は季節になれば花を付けます。わたしの場合、頭の後ろの髪飾りが頭から直接生えていますね。」
そういうとマリーはくるんと後ろを向き、髪を纏めている髪飾りを指さす。濃い緑色の小さな葉の草だけで花は咲いていない。
「それで、もう一つの問題、マスター資格というのは修士号の問題か。」
「はい。このダンジョンではダンジョンマスターは修士でなければなりません。もちろんダンジョンによっては親方、あるいは師範などが条件の場合もありますし、条件自体が不明のダンジョンも多々あります。それで、繁殖させた修羅は設定上の学歴なんか何もありませんから、この世界で教育しなければなりません。」
「そこで学歴が問題になると。」
「このダンジョンで独自に大学『みたいなもの』を作っても、それは帝国大学令・大学令に準拠していませんから、このダンジョンで育てた修羅に修士を取らせても、ダンジョンのマスターと認められない危険があります。」
「グリーンランドのヴァイキング入植地か。」
グリーンランドのヴァイキング入植地が崩壊したのは、航路の途絶で教皇に任命された司教が派遣できず、司教がいなければ神父も養成できず、神父がいないと結婚式が出来ず、挙げ句社会が維持出来なくなったため。
「制度だけの問題ですから、大学ダンジョンでもあれば実態はどうであれ対処は可能かもしれませんし、そもそも杞憂かもしれません。」