452:ダンジョンマスターの資格
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「ダンジョンマスターが死んでもダンジョンは崩壊しないが、ダンジョンが崩壊したらダンジョンマスターも死ぬ。だったな。」
「はい。もっともマスターの場合、おそらく命は9つありますから、ダンジョンが9回崩壊するまでは大丈夫でしょうが。」
「おそらく、で試しに死ぬつもりは無いぞ。」
「現状、わたしも事実上マスター権限を持っていますから、わたしも死にかねませんので試すつもりはありません。何よりダンジョンが崩壊したら100万人以上の住民が路頭に迷ってしまいます。なお、ダンジョンはマスターが失われても崩壊はしませんが、出来ることが限られてしまいます。訪問者から少しづつ生命力をかすめ取る、あるいは本能で成長し怪物を発生させるだけです。」
「それで、吾輩のように最初から居る場合は別だが、新設するダンジョンのマスターはどう決めるんだ。」
「自然に誕生したダンジョンの場合、勝手に生成されるか、誰か適当な素質のある冒険者等が何らかの条件で『なる』ようですが、よく分かりませんね。人為的に作ったダンジョンの場合は、召喚して任命するか、モンスターを繁殖させて育てるか、この世界の誰かに任せるか。でしょうね。修羅の場合はクローンという選択肢もありますが。いずれにせよ、信用できる相手でないと反逆されます。特にこのダンジョンは修羅もマスターの眷属も、組織の犬では無いので無条件の忠誠は期待できません。修羅なら、まぁ利害は考慮しますが。」
主の犬ではない。
「修羅は基本的に松永久秀みたいなものか。」
「梟雄・松永久秀だって、三好長慶と義興にだけは忠臣でしたが、修羅道は水や日光と言った共通資源を巡って互いに争う世界です。自己間引きと言って、例え兄弟でもしばしば殺し合うのが修羅道ですね。」
「そのうち、手っ取り早いのは召喚か。」
「この場合に問題となるのは、召喚『枠』ですね。名前付きモンスターは8枠全て使い切っていますし、誰かが抜けるとダンジョンの運営が困難になります。召喚枠は埋まったままですから、補充も出来ません。このダンジョンの場合、ダンジョンマスターには修士以上の学歴が必要ですから、候補となり得るのは、わたしと、ミント・サピエン先生・キンランだけです。あえて言うなら、今の社会水準なら経営学修士のキンランが一番代替が効くでしょうが、今後のことを考えると好ましくありません。」
「当面はスカーレット居るからな。商学と経済学は、ある程度は似ているはずだ。」
「学問的には商学と経済学は違い、商学の方が個別経営体(企業とか家計とか)志向、経済学は社会全体を計算する傾向がありますが、いずれにせよ営業養成学部ですから互換性はありますね。ちなみに、実業学校だと『大宮女子商業学校』であって、『大宮経済学校』ではありません。」
「とはいえ、このダンジョンは相当大規模なので、名前付きモンスターが欠けると困る。」
「仮に召喚枠が今後増えたとしても、100にもなることは無いでしょうから、今後のことを考えると、あてにはできませんね。」




