451:ダンジョンを作る方法
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「マリーさん、『ダンジョン大百科』にダンジョンを増やす方法は載っていないのか。」
「大百科の記事は抽象的です。具体的な手法は『ダンジョン・ワンノーワン』ですが、こちらは入門書なので応用的なことは書かれていませんね。『死体憑依召喚』の方法がよく分からないのもこのためです。」
「生贄を犠牲にして、異世界でトラックに轢かれた死者を憑依させる。というのは分かるが、その手法は全く不明と。」
「はい。かといって、いろいろ実験する訳にもいきませんからね。このダンジョンはカルト宗教が支配する教団国家ではありませんし、この世界の認識では生贄を欲するのは悪い妖怪、猿や狒々とか蛇とかその辺と相場が決まっていますからね。わたしが討伐されてしまいます。」
「実際にはダンジョンも存続には生贄が不可欠ではあるが。」
「そこは、普通は上手く誤魔化していますね。寿命まで待つ、あるいは山や海での不幸な遭難事故と言うことにする。よくあるのは、怪物を退治すれば宝物を産するけど、たまに強い怪物が居て返り討ちに逢う。とか。普通の規模のダンジョンなら生贄は10年に1人も必要ありませんからそれで十分です。その程度の頻度で哀れな冒険者が犠牲になるのなら、彼らは『安全』と判断します。もっとも、『魔の山谷川』などは例外ですが。」
「事故の危険があっても冒険者は集まるからな……。」
「世の中には遺伝子の影響で、危険を求める人達が居ますからね。なにしろ冒険者とは危険を冒す者と書きますからね。そういう人達はダンジョンが無い異世界でも、立ち入り禁止の防波堤で釣りをして流されたり、ブルドーザーに乗らず徒歩で富士山に登って遭難したりします。もっとも、単純に危険性だけなら、このダンジョンは、かなり危険ですが。」
「マリーさん、ダンジョンの『挿し木』の方法は『ダンジョン大百科』に無くても、ある程度推測は可能だろうか。」
「さぁ。ただ、通常のダンジョンの場合、どうやら土地にエネルギーが溜まった場所が、世界のコアのエネルギーを引き寄せることでダンジョンが生成する模様です。それなら、土地のエネルギーの溜まった場所を探し出し、そこにダンジョンエネルギーを溜め込んだサブコアを設置したら、ダンジョンが作れそうな気はします。」
「エネルギーが溜まった場所など分からないな。」
「はい。分かりませんね。中国には風水というものがありますが、あれも経験則の積み重ねで漢方薬同様に『理論』は出鱈目です。とはいえ、統計的には一番ましな選択肢かと思われます。」
「鬼門とか?」
「いえ、正統派の中国風水では、鬼門は考慮しません。あれは古代中国で北東に鬼、幽霊と言う意味ですが、ろくでもない民族が居るため北東を避ける。という物で、個々の建物あるいは都市計画では現地の地形が優先されます。」
「ともかく、風水を参考に、ダンジョンに適した場所を選定し、ダンジョンを作ってみる。ということか。」
「はい。ダンジョンが出来なければ他の方法を試せば良いでしょう。ただし、もしダンジョン作りに成功した場合、ダンジョンを放棄するとダンジョンマスターの命に関わりますから、何としてもダンジョンを維持する必要が出てきます。」