450:クローンダンジョン
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「マスター、遠隔地にダンジョンを作り、転送陣を延ばして繋げる案には、生贄の問題の他にも、いくつかの欠陥があります。」
「問題山積だな。でも問題が分からないと対策のしようもない。マリーさん、どういう問題があるだろうか。」
「まず、転送陣はダンジョンにより規格が異なります。例えば火浣布の山ダンジョンでは、転送陣は鉱山の巻上機で、このダンジョンの転送陣よりも大重量に耐えられ、地下深くの層群から鉱石を運ぶのには有用です。穴地獄ダンジョンでは無動力トロッコで、ダンジョンエネルギーをほぼ使用しないのが強みです。しかし、どちらも速度は遅く遠方への高速移動には使用できません。」
「確かに、もし高速の転送陣が使用可能なら、他の大規模ダンジョンがどこも思いつかないはずは無いな。」
「リニアモーター式エレベーターなど高速移動が可能で、かつ水平方向への展開が可能で無いといけません。仕様が全く同じなら、乗り換え無しでそのまま接続できますから、手っ取り早いのは、このダンジョンの複製ということになります。修羅なら種類によっては挿し木で殖やせますが、ダンジョンの挿し木が可能かは分かりません。」
「サブコアならぬサブダンジョンというわけか。」
「クローン植物は元とは全く別の個体であるように、クローンダンジョンもサブでは無く別ダンジョンとなると思われます。竹藪の竹では無く挿し木ですね。もちろん近接していればダンジョンエネルギーを直接流すことは可能ですが、その場合、稼げる距離はダンジョンの直径では無く半径となるため半分となります。つまり商都梅田には届きません。届くのは、北の鎮狄将軍が城輪柵、北東の鎮守将軍が多賀城、なぜか南西の大宰帥が太宰府にある大宰府あたりです。ですが、可能なら、これらの地域まで道路を延ばして、ある程度遠方にダンジョンを置く方が効率的でしょう。もちろん、人為的にダンジョンを作ることが可能な場合ですが。」
「それで、吾輩をクローンで増やして、サブコアを持たせて派遣するのか。」
「畜生のクローンは、このダンジョンの技術では不可能ですね。言うまでも無く人間のクローンは宗教的禁忌で修羅道に転落するとされています。一方、修羅なら元から修羅道なので問題ありませんし、クローン技術そのものが、元は挿し木に由来するものです。つまり、わたしのクローンを作るのが現実的でしょうが……。」
「が?」
「クローン修羅を一人前に育てるには何年も必要で、その時点でクローンダンジョンが不要になっていたら、せっかく育てたクローンがニートになってしまいます。他人のクローンなら用済みなら放逐すれば良いのですが。」
「居たな。比企小森新戸三郎ってニートが。どうしているのか。」
「相変わらず比企ニートのようですね。わたしだって国人領主は村を治めるために多数必要ですから、三郎はともかく次郎は分家する道もあったでしょうが、この世界でも比企氏はおしまいでしょうか。」
「確か異世界では根絶されたんだったな。」
「はい。もっとも、平家ほど徹底的な残党狩りは行われていませんから、傍系や一族郎党の子孫は居ます。」
「国人領主というのも扱いが難しい存在ではあるが。」
「この世界は近代国民国家が成立するほど社会が成熟していません。異世界の江戸時代同様、基本は封建制で、中国なら秦以前、西欧なら絶対王政確立以前に相当します。この状態で無理に近代化を進めると、たちまち一揆、この場合は国人一揆が起きますね。このダンジョンの存在自体が住民に依存している以上、一揆を放置することも弾圧することもできません。つまり、このダンジョンは『お上』として住民に仁政を敷く以外の選択肢はありません。」
「なんとも封建思想的な話ではあるな。」
「世界自体が江戸時代同様に中世ですからね。」
平安時代までが古代、鎌倉時代~江戸時代が中世、明治以降が近世で、異世界日本では市民革命が起きていないため近代にはなっていない。という考え方。日本では歴史学の主流では無い。




