449:ダンジョンを敷き詰めるという案(続き)
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「マリーさん、このダンジョンから1,000km程度の距離にダンジョンを作り、さらにその端から1,000kmの場所にダンジョンを。と作っていけば、世界全体をダンジョン影響圏に含めることも可能だろうか。」
「……問題は山ほどありますが、理論的には可能だと思います。もちろん既存のダンジョンや村などは影響圏に含まれませんが。ざっくり2,000km四方毎として、世界の表面積が5.5億km2なので130……案外少ないですね。数千年後に海にする部分を除けば100は行かないでしょうか。」
「つまり、飛行機が無くても、ダンジョンが100もあれば転送陣で世界を一周出来る訳か。」
「まる3日必要ですけどね。異世界でも『アエロトラン』という空気浮上鉄道が研究されましたが、飛行機と自動車で十分なので中止されました。ダンジョンを5年ごとに外側に作っていくとしても世界の裏側まで50年、さすがにそれまでには飛行機を入手出来るとは思います。」
「確かに、3日では話にならないな。」
「軌道系の高速移動手段は結局の所、実用性はありませんからね。まだ、この世界が惑星で良かったですよ。これがダイソン球だったら一周10億km、200年くらい必要です。ましてや物理法則自体が違って世界が亀の上に載った平板だったりしたら、全く予測不能です。考えても無駄ですが。」
「一部のダンジョン内のみ物理法則の一部が適用されない。ではなく、逆にダンジョン外の世界そのもので法則が違ったりするわけか。」
「天竜区ダンジョンのドラゴンがそこらを飛び回ったり、真社会塔ダンジョンのアリだかシロアリだかが潰れずに歩き回ったりしたら悪夢ですね。竜騎兵が鉄砲を持った騎兵では無く、竜に乗った騎兵になってしまいます。もちろん竜に乗って鉄砲を使うなら正しい竜騎兵の一種ですが。」
「このダンジョンの高さ142kmというのも十分に悪夢だと思うぞ。」
「普段は転送陣が使えますし、このダンジョンを攻略するなら、ここまで登る必要はありませんから、その点は……。」
「それで、マリーさん、多数のダンジョンで世界のコアから水素を抽出すれば、現実的な年数で海を作ることも可能か。」
「単純に現状の100倍では無理ですね。個々のダンジョンを大幅に成長させるか、多数の既存ダンジョンを参加させないと無理でしょう。ただ、海を作ると別の問題が生じます。この世界は砂漠惑星で雲がありませんが、水分が増えて雲が増えると、恒星が異世界の太陽より少し暗いため、雲が恒星の光を反射してしまい、世界が凍結します。もっとも、惑星を温めるのはフッ素化合物、四フッ化炭素・三フッ化窒素・六フッ化硫黄を大量に放出することで対応は可能です。」
「温室効果だったな。」
「はい。地球史ではカンブリア紀あたりには二酸化炭素が0.5%程度と多かったのですが、この世界で現在の0.12%よりも増やすと、人間や畜生には悪影響が出かねませんね。ですから、温室効果の追加はフッ素化合物が良いでしょう。この方法は、将来、外側の氷結惑星にも応用可能と思われます。」
「惑星の植民地化だったか。」
「内側の惑星はハビタブルゾーンの内側寄りです。内側の惑星を1として、この世界は公転周期が1.33、外側の惑星は1.78。軌道半径が1.21と1.47、つまり日照量が68%と46%ですから、この世界も外側の惑星も人為的な加温無しでは凍ってしまいますね。幸い、外側の惑星も異世界の火星と異なり大きさは十分ありますから、温めれば居住可能でしょう。」
「居住可能な惑星は大きさは似たようなものになるか。」
「人がそのまま居住することができる天体は同じ大きさですね。重力が1割も増えると日常生活は困難ですが、質量が異世界地球の2倍、密度同一なら半径は1.26倍で表面重力は1.25倍になってしまいます。つまり惑星の質量は異世界地球の1.3倍が上限ですね。一方、軽い方も質量が半分以下では十分な大気を維持出来ません。もちろん、『生命』自体は高重力惑星でも大気が希薄な惑星でも凍結惑星の温泉でも存在は出来ますが。」




