444:藪紫(やぶむらさき)
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「マリーさん、ダンジョンの炙り出しだと?」
「まず、このダンジョンの影響圏半径内ですね。半径内で影響圏が広げられない場所は、村など誰かが所有・管理しているか、ダンジョンです。時には村にダンジョンが潜んでいたりしますし、ダンジョンも遠くからでは正体は分かりませんから、影響圏に入れられない場所を片っ端から確認します。」
「冒険者を雇うのか?」
「出来れば山師が良いのですが、はたして優秀な人材が見つかるかどうか。この世界に秋田鉱山専門学校は存在しませんし、このダンジョンで建物は召喚できても名前有り一般モンスターの経歴設定には使えません。」
「面倒だな。」
「こと人材に関しては、『無ければ作る』なんて、源氏物語みたいには上手く行きません。あれも厳密には上手く言ったとは言えないでしょうが。」
「祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり、娑羅双樹の花の色……。」
「それは平家物語です。紫式部による源氏物語には若紫計画と言いまして。ワカムラサキ?」
「マリーさん?」
「名前有り一般モンスターの召喚枠をここで使います。鉱山専門学校は使えなくても、地質学の専門家なら召喚出来ます。天文学は仕様上無理ですが仕方ありませんね。」
「確か紫式部も紫蘇科だったな。」
「ムラサキシキブは、どうしても平安時代の紫式部の影響が強く、このダンジョンでは経歴設定の整合性が取れませんが、同属のヤブムラサキには金山を探す能力があります。地質学の知識を持つヤブムラサキ修羅を召喚し、この世界のヤブムラサキ修羅を助手に付ければ、効率的にダンジョンを探すことができるでしょう。」
「餓鬼じゃあるまいし、修羅に鉱山を探すなんてできるのか。」
「鉱山を探すのに植物を調べる。というのは異世界でもよくあることです。重金属に強いヘビノネゴザというシダが有名ですが、当然このダンジョンではシダ修羅は召喚出来ません。ですが、植物のヤブムラサキは特異的に金を蓄積する性質があるため葉を分析することで金山を探しています。この世界のヤブムラサキ修羅も金を探す能力があると思われます。」
【第三層群10階大会議室】
「マリーさん、久しぶりのモンスター召喚だな。」
「そうなりますね。これで名前付き8人、名前有り一般14人、眷属54匹とマスターで77となります。」
召喚は成功。
「私、藪紫修羅のカリカルパ・モリス。五條と言います。」
見た目はアウトドア系の服装をした紫式部。修羅の髪は生物学的には髪では無いため手入れは容易とはいえ、異様に長い髪は切った方が動きやすいとは思うが。
「五條は確か和歌山の奥の方だったかな。」
「よくご存じですね。」(五條市は奈良県です)
「え~と、五條さん、このダンジョン付近のダンジョンを立ち入らないよう外から調査して、産物を推測、鉱物・植物・工芸品など分類し一覧表を作って……。」
「よくお話しされますね。」(話が長い!)
「いえ。そういえば、五條さんは紫式部の同属ですが、別に京都弁と言うことはないのですね。」
「私、田舎では田舎の言葉に合わせております。図書頭さまは標準語がお上手ですね。」(北関東出身ですか)
植物学的にはムラサキシキブの同属、設定上の経歴は菅原氏の公家では無く、地下家で五条大納言藤原邦綱の末裔、つまり紫式部の同族ということになっているが、もちろんダンジョンで「作られた」修羅に本物の経歴なんか無い。