443:三貨制度
【第三層群10階会議室】
「それで、スカーレット、このダンジョンの経済規模が急拡大すると、小判が不足する。ということですね。」
マリーは経済担当の名前付きモンスター、スカーレットと打ち合わせを行う。
「側近書記、金銀銅が不足することにより、単純な貨幣的現象としてデフレーションが発生します。この世界、通貨の発行量は貴金属の量に規定され、貴金属はダンジョンからのみ産するため供給は制約されます。一方、信用貨幣を中心と出来るほど社会は成熟していません。」
スカーレットが説明する。
「つまり、何らかの方法で十分な金を入手し、サド金山に送って小判に加工した上で、このダンジョンで保管、経済規模の拡大に合わせて流通させれば良いわけですね。」
「この世界では金銀銅は固定の比率、例えば金貨1枚が銀貨10枚・銅貨100枚とかではなく、『三貨制度』といい、需要により互いに相場が変化しますから、経済を円滑に廻すためには、小判のみならず金銀銅の全てを安定的かつ潤沢に供給する必要があります。」
「安定的に潤沢に。ですか。」
「貨幣同様に通貨として流通する『米』の生産が急増しているため、貨幣も増産しないと相対的に米価が暴落し、武士が困窮します。」
「今後の供給を賄うだけの、十分な数の鉱山ダンジョンが必要ですね。スカーレット、ダンジョンなら適時エネルギーを補給してやれば鉱石が尽きることは無いでしょう。影響圏が接続しているダンジョンの場合、植物が菌根経由で栄養をやりとりするみたいに、ある程度のダンジョンエネルギーを直接補充することができます。もちろん、ダンジョンの規模に応じた最低限の生贄は必要ですが、鉱山町があれば自然に寿命が尽きる人も出るので問題ありません。」
「ダンジョンでは無く鉱山だと掘り尽くしたらおしまいだ。」
「異世界のように金銀が鉱山からの採掘なら掘ったら終わりですね。恐山みたいに形成中の金鉱床もありますが、危険すぎて掘るのは困難です。ですが、ダンジョンなら成長させればいくらでも金は入手可能ですね。厳密には、ダンジョンは元素の転換は出来ないので、ダンジョンエネルギーを投入して世界のコアから金を抽出しているだけですから、世界のコアに含まれる量が上限ですが。」
なお、世界のコアには膨大な量の金がある。
「側近書記、穴地獄は鉄だけですが、火浣布の山は140種類もの鉱物を産するので、かなりの種類は賄えるでしょう。」
「スカーレット、火浣布の山も必要な全ての種類の鉱物資源を産する訳ではありませんし、個々のダンジョンに流せるエネルギーはあまり多くはありません。それに、鉱石の他にも必要なダンジョンの産物はいろいろあり得ます。」
「つまり、側近書記、火浣布の山の他にも資源を産するダンジョンを探すと。」
「はい。ダンジョンの大多数は知性が無いただの洞窟ですが、交渉の余地があるダンジョン、つまり、それ以外のうち、餓鬼以外が支配するダンジョンを体系的に探し出し、協力できるなら組織的に育成することで、金銀に限らずダンジョンの産物を入手します。」
「マスター不在で知性が無いダンジョンはどうします。」
「飼い慣らせれば良いのですが、とりあえず保留ですね。今後のために調査だけは必要です。まだまだダンジョンに関しては分からない事がたくさんあります。」




