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442:出来ないことと出来ないこと

【第三層群屋上展望台・世界樹】


「マスター、三角草野といい、商都梅田といい、やはり影響圏外が問題ですね。外に無関心。という訳にもいきません。疲れました。」

「たまには休暇でも取った方が良いかもな。」

「今は休暇を取るのは難しいですね。ダンジョンの運営は基本的には誰かに任せれば良いのですが、そのためには、まずわたしが任せる相手を探すか召喚しないといけません。探すのは面倒で召喚は枠が限られます。どうやら名前付き(ネームド)モンスターは8人から増えそうにありませんし、名前有り一般(ネームドモブ)モンスターも各分野に配属するには足りませんね。そもそも召喚可能な分野が制約されますが。」

「ダンジョンモンスターの設定上の経歴の基準による制約だったか。」

「第一層群が市の研修用図書館、第二層群が市立図書館。おそらく本来のチュートリアルでは第三層群が県立図書館で、第四・第五層群かどこかで東京帝大や帝国図書館。東京帝大ならば、ダンジョンモンスターの設定上の経歴に教育学部や薬学部が設定できないとか、なにより図書館なのに司書が居ないなんて事態は避けられたはずです。あるいは帝国図書館召還時に付属の文部省図書館講習所が付いてきていれば、少なくとも司書は入手出来たはずです。零れた牛乳を嘆いても無駄ですが。」

 中国で言うところの覆水盆に返らず。

「図書館のある学校は国でも地方でも政府のものなら建物は召喚出来るんだがな。」

「それでダンジョンモンスターの選択肢が増えない。というのは困ったものですね。マスターの眷属も実業学校卒という設定なら学校を複製召喚すれば選択可能な眷属は増えますが、大卒設定の場合はタイプを増やせません。」

 もちろんマリーは知らないが、そもそも、最初のナビゲーター召還時にダンジョンマスターが修士(マスター)持っているのに英語を読まずに間違えたので、どうしようもない。


「そこで異世界転生か死体憑依召喚だけど、問題がある。だったな。」

「はい。記憶を残した輪廻転生は親から生まれる必要がありますが、このダンジョンはダンジョンモンスターは修羅、眷属は獣人しか召喚出来ません。修羅は最初は植物で脳が無いため記憶を保持した転生が出来ませんし、獣人も脳容量の問題で記憶や技能が大幅に欠落します。」

 シルバーフィッシュなども召喚可能だが、ただの小動物で知性が無いため対象外。

「それならば、邪悪な死体憑依召喚しか無いか。」

「また、異世界転生も死体憑依召喚も、前世が老衰などによる、ゆるやかな自然死では技能を完全に忘れている危険性が高いため、例えば異世界でトラックがそれなり以上に有能な司書を轢くなど事故が起きないと良い素材が入手出来ません。」

「実際にはトラックに轢かれるというのは、そんなに多くは無いはずだが。」

「はい。前世紀には交通事故は多かったですが、さすがに前世紀の人では今の技術について行けません。そして、今世紀でもまだ交通事故が多かった半世紀前、21世紀初めでも、トラックが歩行者等を轢く事故は年数十件程度で過半が高齢者。最近はさらに減っています。異世界は無数にあるので、確率論的には大丈夫ですが、探すのが大変ですね。もっとも、現状では図書館として運用していませんから、わざわざ死体憑依召喚の方法を調べてまで司書を調達する必要は無いでしょう。」


「確かに図書館では無いな。確か本来、図書館都市ダンジョンとは……。」

「多彩な異世界から億を超える書籍や無数の雑誌・新聞等を召喚するダンジョンであり、この世界の神話・伝承・冒険記から創作物語や詩歌まで多様な情報を集積・書籍化する図書館であり、学者達をはじめとする多数の住民が生活する都市である。」

「実態としては何なんだろうな。」

「さぁ。いわば600万石の藩で、この世界で言うなら『紫蘇図書頭様御家中』。主な生産物は水と肥料と燃料(本と新聞)ですね。ダンジョン影響圏全体で見ると、呉服や小間物など工芸品と乾物などダンジョンの産物を輸入し、食料を輸出している。といったところでしょう。」

「衣類などはダンジョンモンスター用にコアでも産していないか。」

「ダンジョンの機能で入手出来るのは洋服で、この世界で求められるのは反物ですからね。洋服は珍奇な贈り物にしかなりません。木綿程度ならダンジョン影響圏で栽培可能ですが、これを高価な織物にするには熟練技術が必要で、そうそう自給は出来ません。もっとも、何もかも自給を進めると過剰に金銀を溜め込むことになり、地域経済自体が破綻します。」

「小判が出回らないと経済が廻らなくなるか。」

「小判もサド金山など限られたダンジョンでしか産しません。今後、火浣布(かかんぷ)の山ダンジョンで金を採掘してサド金山へ送ることで、いくらかは小判を補充出来そうですが、経済規模が急拡大するため、それでも不足しそうです。」

「ダンジョンで紙幣を刷る訳にもいかないか。」

「せいぜい米切手ですね。これはスカーレット(サルビア)の受け売りですが、金銀や米、経済学では『正貨(せいか)』と言いますが、その裏付けが不十分な紙幣は信用不安の危険がつきまといます。このダンジョンは経済規模が大きいだけに、取り付け騒ぎなど起こしたら大変な事態になります。」

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