044:確かに馬だけど、騎乗できるのか、コレ?
【図書館ダンジョン前】
入植希望者がちらほら居るため、ゆっくりと人口は増加。そんなある日、マリーの所へ馬耳の生えた娘がやって来た。
「ハルナって言います。馬を探しているって聞いたので、馬借より稼げるかな。って。」
服装は女物の着物に袴。馬面だけど頭は人間で鬣は無くただの黒髪。見える範囲では耳と尾と足が馬、つまり馬脚で草鞋を履いている。手は人間なので明らかに四足歩行は出来ない。よく見ると瞳孔は横長。要は下半身と目・耳が馬。
なお、馬借とは、動物の馬の背中に載せ、あるいは馬獣人などが自分で背負って荷物を運搬する業者。
「馬……?」
「馬ですよ。馬。どこからどうみても鹿には見えないでしょ。角も無いし。……たしかに毛色は鹿毛ですけど……あたし、まさか鹿では無いよね。」
鹿だって牝には角は無い。牛なら(品種によっては)あるが。なお、鹿毛でも鬣と尾と馬脚の先(膝より下)はかなり黒に近い色なので、顔が馬では無く服を着ていると黒毛(青毛や青鹿毛のこと)との判別は困難になる。茶髪は栗毛、白髪は芦毛、禿は何だっけ。
「馬の仕事は、騎兵隊で騎士を載せるとか、畑を耕すとか、馬車を曳くとか重労働ですが……。」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。力に自信はあります!」
「ゆくゆくは繁殖させて馬を殖やすつもりなのですが……。その……。あなたが……。」
「できれば白馬の王子様とか。」
一瞬顔が赤くなる馬。……馬だよな? 白馬に乗った王子様では無く、芦毛の馬獣人の王子様なんだろう。
【第四層群1階応接室】
「ラージャ将軍、騎士団長、軍馬とは思えませんが、ダンジョンで雇い入れようと思うのですけど、どうでしょう?」
「あたし、群馬生まれ。」
「軍馬だったのですね。繁殖させて騎兵隊を組織して賊を悉く地獄送りにしましょう。」
「……繁殖……。」
「それ、『ぐ・ん・ば』ではなく、『ぐ・ん・ま』では無いのか?」
馬の顔は真っ赤だし、明らかに誤解が起きていたので、口を挟む岸団長。
「群馬とは、ここ足立から遠く北、大里・榛沢・児玉といった地域のさらに向こうで国も違う。比較的獣人が多い地域らしい。」
「それは遠いですね。道中、海賊とか怖くありませんでしたか?」
「騎馬の海賊なんて滅多に居ないし、もし居たところで逃げ切れます。」
「足が速いのですね。千里の馬とか?」
ラージャが聞くが、山賊(海賊と自称している)が乗った馬より、荷物が軽い馬獣人の方が速いのは当然。
「千里は無理だけど、1日に10里でも15里でも軽く。20里は少し疲れるかな。」
「ラージャと言います。よろしくお願いします。えっと、名前は……?」
「ハルナです。で、この髪の長い子を担いで戦場駆け回れば良い訳ね。」
「私か、こちらの岸団長か。」
「えっと、オジサン乗せるのは……さすがに、それはちょっとイヤかも。」
「ならラージャにお願い。馬具を用意しないといけませんね。播磨介殿には動物の馬を探しましょう。」
とマリー。
「異世界にも『人馬鞍』という鞍があり、岡藩主の中川久清が使っています。でも、登山では無く戦場で使うなら向きを逆にするべき。」
指揮官が戦場で後ろ向いていたらダメだ。馬の頭の上から戦場を見渡す方が良い。……でも、馬獣人の背負子に乗った武将なんて絵面的にどうかと。
「決まりですね。牛飲馬食と言いますから、一人扶持では足りないでしょう。まず20俵、いや100俵5人扶持、しばらくは米が無いので代用食ですが……。」
「大盤振る舞いだな。」
と、岸団長。江戸時代の下級武士は30俵2人扶持(40俵)程度だが、ハルナ号は125俵相当。ただし、これは江戸時代なら家臣2人(槍持・中間)とメードが居る程度で、騎乗身分としては少ない。
「千里の馬が欲しければ、馬では無く馬獣人でも厚遇すべきです。そうすれば、馬の方からやってくるでしょう。」
「私は『死馬の骨を買う』と言う言葉を聞いたことがある。もちろんハルナ号は生きているが。」
「生きていても、西の方にはおっかない商人が居るからな。近江泥棒伊勢ナントカ。って。そういうのに目ん玉抜かれないように気を付けろよ。」
馬では無く馬獣人がぞろぞろやってきて、全員が岸団長を乗せない。なんてことになったら……。
「獣人」は大抵の世界で頭が動物なのですが、それでは牛頭馬頭と紛らわしいので下半身(と目・耳)だけが馬というシーレーノス類似に。その代わり、広い視界を持たないという欠点も。……で、牛頭馬頭って解剖学的に話せるのか?




