439:西方への自動車道の現状
【西方面転送陣末端・読書村】
読書村から不破関まで約1,000km。ダンジョン影響圏から西へ延びる鉄道は、地面を均して砂利を敷き詰め、コンクリートと鉄を梯子型に組み立てた部材を並べたもので、「バラスト・ラダー軌道」という方式だとか。
「ミント、作業は順調でしょうか。」
「側近書記殿、概ね順調です。ただ、海豚池は生贄無しでは電気は供給出来ないとのことなので、海豚池ではなく、その影響圏のすぐ北側を通るよう変更しています。また、電力は不破関まで、転送陣から部品取りした超伝導送電線で送ります。なお、転送陣そのものを解体・運搬して再度組み立てるのは、今の技術では無理です。」
「いっそ、西の方、シメジ城から黍にも超伝導線は使えないでしょうか。」
「さすがに難しい問題がいろいろ出てくるから、あくまでも長期的な検討課題です。不破関までの工事用軌道だけでも、あと数年は必要です。」
「ダンジョン影響圏内なら一瞬なんですけどね。」
「土木的に作るとなると、測量して設計して準備して工事して、と、何年もかかります。それでも線路は部品をダンジョンで作って並べるから早いですが、道路は現地でコンクリートを打つため、まず生コン工場から作らないといけません。しかも道路の方が圧倒的に幅が広く、鉄道は10mですが道路は自動車道としては最低限の片側3車線でも40m、今回暫定的に作る半分だけでも幅16m必要で、コンクリートの量は10倍になります。」
「道路は時間が掛かりますか。しかも炭化水素燃料が無いため、頻繁な充電が必要ですね。大型トレーラーがあれば、物流の問題は解決するのですが、移動図書館にあまり大きな車輌は使われませんからね。鉄道にしても、失敗した技術である『新幹線』ではなく、南関東交通局のアメリカ製電車でもあれば良いのですが。」
省線全線廃線時に東京市など南関東2市4県が通勤路線を引き取った公営鉄道。
「公営図書館に無いから仕方ありません。私学なら東横の中古電車を校舎にしている例はあります。」
「仕方ありませんね。『無ければ作る』というのは現実的ではありません。有る物を転用して何とかするしかありませんが、いくら『乗り物』と言っても転送陣の籠を流用する訳にもいきません。それで、商都梅田の電車と、『新幹線』に電気自動車のモーターを組み込んだものと、どちらが性能が良いのでしょうか。」
「モーターは新型ですから、いくら車体が100年前の技術とは言え新幹線の方が総合的な性能は良いでしょう。もちろん何か特定の項目だと劣る点もあります。」
「せめて車体がステンレスならもう少し軽量だったのでしょうが、結局の所、『新幹線』は一部異世界にしかない、しかも失敗した技術ですからね。多摩県にあった新幹線図書館が1992年開設ですから、新幹線が開業した異世界でも1987年の省線廃止で廃線になったのでしょう。」
「その辺は世界により微妙に異なるようですが。」
「それで、反対側の商都梅田はどんな感じでしょうか。」
「商都梅田はダンジョンから100リーグ、482.7kmまではダンジョンの機能で影響圏外でも鉄道を作る事が出来ますが、そこから不破関までは約250kmと、かなり遠いため既に電圧降下が起きています。不破関から大餓鬼までは約100kmとさらに遠いため、かなり難しい問題が起きると思われます。」
「電気抵抗により電気が不足する訳ですね。」
「さらに、不破関は大餓鬼より標高が高いため、西行きは上りとなり、電車が登れない可能性もあります。」
「そうなると、自動車道だけでなく併走する鉄道も不破関まで必要ですね。結局、図書館都市ダンジョンで全線作ることになりそうですか。」
「まだ、西の方まで工事は進んでいないから、どうなるか分からないが。」




