434:西方への道程・キノコの世界、針の国
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「商都梅田の鉄道は、東のこちら側は不破関までだったな。西端は確か針の国、シメジ城の町だったか。」
「確かそのあたりです。針の国は比較的キノコ修羅が多い地域ですね。キノコは生物学では植物ではないのですが、博物学的な区分では、修羅が植物界、畜生が動物界、餓鬼が鉱物界で、キノコは植物界に分類され、この世界では修羅になります。姫路の語源はシメジではありませんから、これは那須が茄子に、桐生が胡瓜になるように、この世界特有の読み方に引きずられた変換でしょう。」
「六道輪廻では人間と畜生は別だが、生物学的に言ったら人間も動物だな。」
「単に、極楽往生出来るかどうか。というのが人間道と畜生道との違いですね。つまり生物学的な区分では無く宗教的な違いです。例えば動物は念仏を唱えることは出来ませんから、当然極楽往生は出来ません。なら、僧侶を呼んで動物を供養した場合どうなのか。極楽には三悪道に含まれる『動物』は居ませんから、一度人間に転生するのか、すぐに人間の姿になって極楽往生するのか。そもそも極楽は時間感覚がこの世界と違うので、時期はどうでも良いことなのか。」
「それこそ、畜生道の僧侶である蛸入道がどのように極楽へ行くか分かれば簡単だが。」
「分かりませんね。マスターが9回死んでみれば体験できるでしょうが……。」
「さすがに死ぬのは断る。で、マリーさんのような修羅は極楽往生出来るのか。」
「極楽に修羅が居ないという記述は記憶にありませんが、どうなのでしょうね。幸い、わたしは寿命がありませんから、知る必要もありませんが。」
「それで、針の国に関する既知の情報だが。」
情報というのも異世界では明治以降の和製漢語で、この世界では使われていない単語。図書館都市ダンジョンが多用するため関八州では徐々に広まりつつあるが。
「針から濃尾までは商都梅田の鉄道が利用できますから、関八州とも交流はあり、このダンジョンでは、先ほどの蛸入道、あと岸団とその親戚が針の国から来ています。」
「キノコは来ていないな。」
「このダンジョンには来ていませんが、基本的にはキノコの国のようですね。まぁキノコに関しては、毒があるとか、いろいろ悪く言われがちではありますが。ともかく、不破関までの鉄道が完成すれば、少なくともシメジ城までは数日で移動出来ますから、いろいろと追加で情報が入ってくると思われます。あと、異世界日本の中央標準時は明石あたりですが、この世界で何か対応するものがあるかは不明ですね。」
「時差は相当あるだろうが。」
「この世界は1日12刻の不定時法ですが、針は3,000km以上向こうですから、時差は1刻くらいでしょうか。」