433:西方への道程
rosemary修羅なのでマリーだが、Maryの読みはメアリー。マリーなら綴りは英仏独ともMarie。ヨーロッパ文化圏の世界なら、こんなデタラメは許されないが、このダンジョンで英語を使っているのはウサギくらいなので、問題にはなっていない。
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「商都梅田の西には針の国。その西に大国『黍の国』。そのさらに向こうには『芸の国』、餓鬼の国『石の国』、中華王朝『周の国』、ヘビが支配する『長の国』……。」
下手で不正確な地図を書きながらマリーが商人達の断片的な情報を整理する。
「マリーさん、蛇もヘビだったな。天竜区ダンジョンもヘビみたいな物だし、この世界、ヘビは有力種族なのか。」
「ヘビは『虫』の代表ですからね。読み方も、カカ・ハハ・ヌカといろいろです。黍の北、蛇来の国も蛇ですし、科の北部、ナーガの町も蛇ですね。あと、もちろんダンジョンの力を借りる前提ですが、蛇はいろいろと特殊な力を使えたりします。雨降らし龍のヴァサンティさんみたいに。異世界でも、加賀・伯耆・長門は全部蛇が語源という説もありますが、こちらはなにぶん古いことなので断定は出来ません。」
「このダンジョンは、武蔵の国を超えて科の国の南部、読書村まで影響圏内で転送陣があるから、そこまでは容易に行く事が出来るな。」
「この世界では『しなのくに』、異世界では『しなののくに』ですね。歌の方は今世紀初めには著作権が切れていますが。いずれにせよ科は地形的に分断され、統一されていない地域です。ただ、科の事は既によく分かっているので、今回は置いておきます。そして、現在、その西の身終の国を横断する自動車道を建設中ですね。」
「ダンジョンの機能が使えるなら早いんだが。」
「全くです。そして、身終の西、不破関から向こうは、商都梅田の鉄道があります。」
「固有法則が、影響圏外に鉄道を作る。だったな。」
「はい。半径100リーグ、通常のダンジョン影響圏の拡張限界と同じ距離までダンジョンの機能で鉄道を生成できます。商都梅田は人為的にレールを敷いてその外側にも鉄道を延ばしていますが、電気抵抗によりあまり遠くには電気を送れないため、西、いえ、彼らから見て東は不破関、西はシメジ城までしか鉄道はありません。」
「さすがに蒸気機関車という訳には行かないか。」
「関西は炭鉱が少ないですから、商都梅田は炭鉱ダンジョンを見つけていないのでしょう。この世界の有名な炭鉱ダンジョンには『軍艦端島』がありますが、商都梅田から遠い上に現在は地下にソンビの大群が居て石炭は採掘できません。一方、この世界は概ね砂漠なので木材は貴重で、薪も高く付きます。」
「この世界、炭鉱もダンジョンでしかあり得ないからな。」
「もし河内がハノイになってホンゲイ炭田でもあれば石炭は入手できるのでしょうが。」
「そう都合良くは行かないか。」
「そして、フランス人が居なければ、バルチック艦隊みたいに無煙炭と偽ってクズ石炭を売りつけられることも無いでしょう。」
「関西地方は概ね商都梅田の鉄道が利用可能な範囲だが、政治的には統一されていなかったな。」
「はい。身終は変態地方とか言っていますが、1,000km四方よりやや広く、10程度の国に跨がる範囲ですね。ある程度の資料があるのは、このあたりまでです。」