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431:無策

【第三層群屋上展望台・世界樹】


「マスター、三角草野は撤退しましたが、(こし)の耕地の被害は甚大です。」

「雑草による凶作分の米を売るにしても(こし)が代価を払えない問題があるか。土地は人が住んでいる以上ダンジョン影響圏に組み込めないし、住民を追い出して何年か放置する訳にも行かない。資源はダンジョンの産物であり(こし)で産する訳では無い。」

「そのうえ、三角草野の再侵攻に備えて百里の長城を強化しないといけません。これ、政治的にはかなり危険なことです。」

「危険なのか。」

「古代以来、あまたの帝国が、国力の限界を超えて遠方に手を伸ばし、挙げ句に過剰拡張により疲弊し没落してきました。はっきり言って軍備は金食い虫、掛け捨ての保険みたいな物で、さらにダンジョンにとって影響圏外への投資は金銭であれダンジョンエネルギーであれ一切直接の利益はありません。」

「確かに、影響圏外ではダンジョンエネルギーは得られないな。」

「商都梅田との交易路なら、住民の生活を向上させ、得られるダンジョンエネルギーが増える効果はありますが、長城はなにも生み出しません。」


「マリーさん、ならば、今後の長期的な方向性としては。」

「三角草野が諦めないなら、選択肢は4つですね。まず、(こし)の一部を切り捨てる。次に、ダンジョン影響圏を何らかの方法で拡張。3つ目は、何らかのダンジョンを手懐けて緩衝地帯とする。最期に、三角草野を滅ぼして禍根を断つ。」

(こし)の切り捨てというのは、影響圏半径より外側を放棄だろ。引っ越しの荷物が莫大になる。」

「はい。国府の今池も放棄することになり、事実上(こし)の解体です。」


「ダンジョン影響圏の拡張も方法が分からない。」

「半径2,000kmもあれば十二分ですが、地平線までの距離2,000kmだと塔の高さが300kmも必要になること、そもそも影響圏を今の1,373.45kmよりも広げる方法が全く不明なことが問題ですね。」

「300kmというと今の倍以上か。距離は5割も増えないのに。」

「現状でもタワーマンション併設図書館や多数の公民館図書室などで相当水増しして142kmですから、あと158kmは難しいでしょうね。日本語圏以外の図書館、それこそジャカルタのマレー連邦図書館や中華民国の上海図書館みたいな超高層図書館で1,000以上、現実的には数千必要です。」

「そもそも論として外国の図書館は召喚出来ないな。」

「はい。出来ませんね。もし、アレクサンドリア図書館を蔵書ごと召喚出来たなら歴史学に革命が起きますが。それにしても、当時は教祖すら銀貨30枚だったのに、この世界では伴天連でも銀500枚ですか。でも、そういうの捕まえたとして誰が払うのでしょう。」

 定、切支丹宗門は累年御禁制たり……伴天連の訴人 銀500枚、伊留満の訴人 銀300枚……。

「別に支払われることは想定していない、単なる慣習かな。」

「異世界のアメリカでは星条旗ドアマットが愛国グッズですから、この世界の『踏み絵』も効果が無さそうな気がしますけどね。」


「そして、他のダンジョンを手懐ける。というのは良さそうに思えるが、何か問題があるか。」

「まず、適切な位置に適切な属性のダンジョンがあるか。という問題。次にそのダンジョンが信用できるか。という問題。最期にダンジョンの拡張には膨大な数の生贄が必要。という問題がありますね。」

「ダンジョン自体はいくらでもあるけど、話が通じるダンジョンで無いといけないな。」

「はい。ほとんどのダンジョンは知性がありませんから。そして、長さ500kmなんて、丹沢ヒルズ(300km)より大きく、九十九里砂漠や大井川といった巨大ダンジョン並です。那須塩原(600km)や天竜区(700km)はそれ以上、三角草野は900km級の超弩級ダンジョンですが。」

「このダンジョンはさらに大きいが。」

「直径は2,700kmですからインコンパラブル(比類なき)級でしょう。世界大戦中に計画中止になったイギリスの巨大巡洋戦艦ではありませんが。」

「あと、三角草野との緩衝地帯のはずのダンジョンが大きくなりすぎると直接脅威になる危険があるか。」

「傘下ダンジョンにあまりに巨大な力を持たせると、修羅なら、裏切った方が得なら裏切るでしょうし、人間や畜生だと損でも裏切らないとは限りません。もちろん複数のダンジョンを並べるという方法もあり得ますが、ダンジョンを人為的に作る方法は分かりませんから、難しいでしょう。」

「ダンジョンの種を播いたら生えてくるという訳にも行かないな。」

「それが出来るなら、特定(ファミリー)の修羅が管理するダンジョンを生成し、現在手元に無い有用植物を名前付き(ネームド)または名前有り一般(ネームドモブ)モンスターとして召喚し、植物体を増殖させることが可能です。」

「そう上手く行くか。だな。」

「せいぜい(こし)で有望なダンジョンを探し、このダンジョンに危険にならない程度に育てて、三角草野を妨害する拠点にする。くらいでしょうか。」


「最期は三角草野の攻略か。」

「三角草野が再度(こし)に首を突っ込んでくるなら、ダンジョンごと攻略してしまうのが一番です。ですが、軍勢によるダンジョン攻略は不要な犠牲が生じますし、冒険者を送り込むのも慎重にやらないと、かえってダンジョンを強化しかねません。そして、おそらく有効であろうラジウム爆弾は到底手が出ません。」


「要するに、さすがのマリーさんも、打つ手無しか。」

「すみません。ダンジョンの外側で外敵に対処する。というのはダンジョンの本質として困難です。それは三角草野も同じはずなのですが。」

「やっぱり誰かが三角草野を焚き付けているのかな。」

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