430:消化不良の幕切れ
【三角草野ダンジョン・太陽神殿】
「猊下、東半分では阻止されましたが、西半分は概ね成功です。逃げることに徹したため、西半分は死傷者もそこまで多くはありません。」
レピロニア・アルティキュラータ、筵を編む者が報告する。
「そこまで多くは……か。かなりの死傷者が出たと言うことだな。」
「はい。そして東側は敵の魔法攻撃によりかなりの損害を出しています。」
「魔法だと! ダンジョン影響圏の外だぞ。紫蘇ダンジョンは厄介な固有法則を持っているな。」
「はい。見たところ火魔法です」
「う~む、ダンジョンの外で魔法を使うか。」
「猊下、ダンジョンは守りに強いため、敵をダンジョンに引き込めば勝てます。相手のダンジョンに攻め込んだら負けます。ここまではダンジョン間戦争は大抵そうです。で、紫蘇ダンジョン相手にどちらのダンジョンでも無い場所で戦うと負けます。」
「勝てない、ではなく負けるか。」
「紫蘇ダンジョンは火魔法を使い、かつ修羅ダンジョンにとっては使い潰して構わない畜生を主戦力としています。つまり、戦っても相手はいくらかのダンジョンの力を失うだけ、こちらにはまともに被害が出ます。」
「筵を編む者、根本から危険を取り除く、つまり紫蘇ダンジョンを攻略するなら、どうすれば良いだろうか。」
「猊下、ダンジョンの攻略方法は2つ。少数の精鋭冒険者か、大規模な軍勢です。しかし、あの規模のダンジョンとなると、並の冒険者では太刀打ちできませんし、軍勢も十万ですら心許ないでしょう。」
「ふむ。いずれは攻略せねばならぬが……。特別な冒険者にせよ10万を超える軍勢にせよ、とても手に負えない。」
「猊下、あるいは懸賞金をかけるか。例えば、冒険者であれ軍勢であれ、紫蘇ダンジョンを攻略したら1万キテくらいの莫大な金を与える。」
1万キテは93kg。小判1枚に含まれる金は15gなので6,200両相当。
「筵を編む者、軍勢の場合、3つ問題があるが。」
「はい?」
「1万キテといえども10万単位の軍勢を揃えるには到底足りない。かといって100万キテなんて量の金は三角草野には無い。仮に大量に金を用意したら逆に金目当てに三角草野が攻められる危険がある。」
「確かに、紫蘇ダンジョンより三角草野の方が攻めるのは容易でしょう。残念ながら。」
「そして、冒険者に賞金を出すにしても、どれほどの冒険者が来るか。」
この世界にはステータスなんて無いため、冒険者の強さも鑑定不能。口先ばっかりだったりもする。
「弱い冒険者では勝てないどころか、かえって事態を悪化させます。」
「うむ。完全後払いなら三角草野の負担は無いとは言え、冒険者を送り込めば送り込むほど紫蘇ダンジョンが強化されることになりかねない。」
「猊下、ダンジョン攻略はそこが問題です。中途半端に手を出すと逆に事態が悪化します。」
「決定的な一撃を与える方法を考えなければならないな。広く意見を求めることにしよう。」