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423:作付計画

【第三層群屋上展望台・世界樹】


「マスター、三角草野に振り回されている間に、そろそろ田植えの準備が必要です。」

「もう春か。」

 ローズマリーにはあり得ない大きさに成長した世界樹は、一面に青紫の花を咲かせている。もちろんマリーの「植物体」であり性別が無いため、種子が出来ることは無い。

「まずは苗作りと田起しですね。図書館都市ダンジョンの水田は灌水で維持された巨大なダンジョン構造物のタライですから、この世界の普通の水田とは扱いが異なります。将来的には異世界の水稲乾田直播栽培を導入したいのですが、除草剤が無いので今は無理ですね。」

「今は雑草を道具で物理的に除草するために、両正条植えだったか。」

「はい、異世界では明治期に普及し、令和期に田植機の精密制御で完成した手法ですね。作付けは昨年が40万町歩で、今年は60万町歩を予定していましたが、(こし)の破滅という最悪の事態も想定し、農村人口が許す限りの70~80万町歩を目標とします。」


「さすがに米が余るのでは無いか。」

「問題が無ければ余りますね。それでも年貢……はあまり余裕は出ないでしょう。凶作に備えて民間から米を借り上げて籾のまま冷蔵庫で保管すれば2~3年は保ちます。その後は味が落ちてきますから、家畜を殖やして餌ですね。もし凶作で米が足りなくなったら家畜を一部肉にすれば良いでしょう。」

「マリーさん、家畜は人間ほどには殖えないから、凶作で減らしてしまうと回復に年数が必要なのでは。」

「確かに牛馬はマリア・テレジアとかヴィクトリア女王ほど多数の子供を作るのは困難ですね。そうなると豚ですが、……この世界、牛馬も豚も食べる習慣はありませんから、やはり鶏以外の家畜の併用は無理があるでしょうか。」

「ただ、何らかの凶作への備えは必須だからな。ダンジョン内はある程度対応出来ても、周辺で凶作が起きるのは防げない。」

「ダンジョン内でも病虫害は完全には防げませんね。害虫を侵入者と見なして撃退する。といっても数が多いと対処困難です。」

「つまり、ダンジョン間戦争では害中系ダンジョンが強敵になると言う訳か。」

「害中系でも、巨大昆虫を使うものは脅威にはなりません。ダンジョン外では自重で潰れますし呼吸すら出来ません。昆虫は体の厚さが10cmを越えるのは困難ですから、全長でも1mを越えることは無いでしょう。しかも、古生代の巨大昆虫が絶滅したように、大型の昆虫は鳥より鈍重で食べられてしまいます。もちろん、固有法則で弱点を埋めればダンジョンの防衛には有用ですが、わたしはそんな虫など見たくもありません。」

「小さい方が危険と言う訳か。」

「無数の昆虫をいちいち排除するのは大変ですからね。かといって今の技術力では虫だけに効く進んだ農薬は製造出来ません。」

「製造可能なのは害虫よりも人間に良く効く農薬だったか。」

「はい。そんなものを使う訳にはいきません。ですから、ダンジョン間戦争は無益とは言っても、害虫を産するなど危険性の高いダンジョンは早めに攻略しておく必要があります。あと、管理者不在で無駄に広く利用価値も無い峠道ダンジョンですね。放置すると成長してダンジョンマスターが生成され、攻略困難かつ存在価値皆のダンジョンになる危険があります。」


「三角草野も無駄に広い上に役立たずだが。」

「遠すぎて手が届きませんからね。それに、今の影響圏内だって開発するにはダンジョンエネルギーが全然足りません。無駄な土地を溜め込んでいるダンジョンを非難するのに、自分が使わない土地を溜め込んでいては説得力がありませんね。」

「そうなると大量に生贄が必要だな。」

「生贄は時間が解決すると思います。今の住民は100年もしたら修羅の一部以外みんな寿命が尽きています。幸い、このダンジョンの『価値』は『情報』、知識とか経験とか創造とかなので、生贄も知識や経験が豊富な者や創造性豊かな芸術家、要は本にしたときに情報量の多い者から、より多くのダンジョンエネルギーを得られます。つまり寿命が尽きた老人からも十分なダンジョンエネルギーを得られますから、待てば済みます。」

「人間牧場でも寿命まで待てない場合もあるか。」

「はい。例えば穴地獄は温泉だけあって、熱量。クニ(六合)さんからは想像できませんが。火浣布(かかんぷ)の山は鉱山のためか筋肉。汗をかく肉体労働から効率良くダンジョンエネルギーを得られます。そして中山(ちゅうざん)競馬場は賭博。手を付けてはいけないお金を賭博につぎ込むような強烈な感情を力にします。このあたりなら、生贄が歳を取っても全くダメということはありませんし、ある程度は、森の植物が菌根で養分を輸送するように、このダンジョンからエネルギーを融通できます。ですが、世の中には幼児を生贄に捧げないと維持出来ないダンジョンもあるそうです。」

「そこまで行くと邪神だな。」

「ダンジョンは存続に生贄が不可欠なように、おそらく本質的には邪悪な存在なのでしょうね。わたしも容赦無いやり方で『悪』と言われていますが。」

 マリーがホトトギスを根切りにすることは、よく知られている。もっとも筑波にせよ(あわ)(ふさ)連合にせよ、逆に攻め込んで皆殺しなんて無益なことはしていない。

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