414:祭りの後
【第三層群10階会議室】
「残念。負けてしまいました。」
と、馬脚のハルナが報告する。
「今回の暫定コースは、直線ですし、土なので芝よりも馬力を要するため、馬よりも体格が劣る馬脚は不利。というのはありますね。ある程度の頻度で競馬を開催すれば、中山競馬場ダンジョンの維持には十分ですから、来年は野菜畑を転用して芝コースを作らせます。」
「マリー、さすがに犬追物は年1回がせいぜいだろう。」
「ラージャ、確かに大がかりですし決着に時間を要します。中山競馬場ダンジョンに関しては、適切に維持管理していく。という方向で行きます。」
「次は勝ちます。」
「はい。お願いします。それでハルナにお願いですが、三角草野がこれで引き下がるとは思えません。車が使えない場所で、俊足を生かして偵察をお願いします。ただし、決して三角草野の影響圏には入らない事。」
「はい?」
「ダンジョン影響圏内は物理法則が通用しない世界、何があっても不思議はありません。」
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「面倒ですね。ダンジョン影響圏外で敵を倒してもダンジョンエネルギーは得られません。かといって、敵を倒して雑草の種蒔きを阻止しないと越の国が荒らされ、難民が大量に生じます。」
マリーは地図を見ながら言う。
「300万人だったか。このダンジョンの人口の倍か。」
「転送陣の輸送力では到底足りませんからね。300万人と多数の家財、おまけに牛馬。」
「家畜か。これまた場所を食うな。」
「異世界でも越後は馬が多い文化圏ではありますが、鎌倉時代の『国牛十図』にもあるように牛の産地でもあります。この世界の越でも牛馬が多く飼われていますね。……つまり、避難は到底無理です。」
「難儀だな。」
「いっそ、見捨ててしまえれば楽なのですが、立場上そんなことは到底出来ませんからね。」
「事実上、このダンジョンが関八州の中心みたいなものだからな。」
「さすがに、そこまでは行っていません。でも、奥州多賀城の鎮守将軍、北方秋田城の鎮狄将軍みたいに地域の安定を確保することを期待されていますし、数年もすれば、それこそ征夷将軍みたいな立場になりかねませんね。わたしは源氏では無いので資格はありませんが。」
「この世界、源氏は竜胆科、藤原氏は豆科、平家は完全変態の蝶虫人になるのか。」
「別に異世界と一対一対応でも無いですからね。例えば、織田家の家紋は異世界では木瓜紋ですが、この世界では尻です。それに、家紋は種族とは合致していません。」
単に織田では無く小田なだけ。
「とにかく、越を見捨てるわけにはいきませんし、このダンジョンの外征軍は限られますから、越の軍隊に……これも寄せ集めですね。この世界、近代的な国民軍は存在しません。」
「江戸時代水準だからな。主要武器は火縄銃と槍だそうだが。」
「それでも、機関銃を持たせると政治的に危険ですから、機関銃は図書館都市ダンジョンからの遠隔操作とし、三角草野が鉄条網を越えたら越兵が槍と火縄銃で仕留める。あたりでしょうね。」
「さすがに機関銃は歴史上の火縄銃のように容易に量産は出来ないとは思うが、それでも流出すると危険だな。」
「問題は、機関銃の量産です。兵器は軍事機密なので、図書館で入手可能な資料だけでは、まともな性能の物はなかなか生産出来ません。現状、ウサギや狂犬隊に持たせるのはせいぜいです。」
「まだ火箭の方が技術的には容易か。」
「技術的には13世紀の物ですからね。細かな改良はいろいろされていますが、基本的には鉄パイプに肥料を詰めた物です。ただ、命中精度が低いため数が必要で、これまたダンジョンエネルギーに悪影響を与えます。」




