413:中山グランプリ?
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「三角草野にサブコアと、いろいろありましたが、いよいよマスターお待ちかねの中山グランプリですね。現地へ行く訳にはいきませんから、中継を繋ぎます。」
「今回は試験的というか。さすがにダートどころか土で直線ってのは開催回数には加えられないと思うが。あと、この世界だと、年末という訳でも無いんだよな。」
「立春が新年ですからね。月が無いので、というか正確には衛星はあるのですが公転周期が1日なので、異世界の江戸時代と異なり、太陰太陽暦ではありません。二十四節気や十干十二支に八卦を加えた二十四山が使われていますね。また、一般に時間は不定時法ですが、このダンジョンでは二十四時間制の定時法を併用しています。」
「1日も1年も微妙に異世界より長いんだよな。」
「1日が火星くらいあるので、時計を毎日合わせる必要があるので困りますね。ただ、生物の体内時計が合わせられないほど1日が短かったり長かったりはしません。」
「あまり極端に違うと生物が生存できない環境になるのか。」
「生物自体はありふれていますが、わたし達のような『地球型』生物には、太陽の重さや組成や年齢、惑星の軌道や重量など、複雑な条件が必要ですね。この世界も、いわゆる『ハビタブルゾーン』の外側寄りにあるため、大気中の二酸化炭素は多めになっています。」
「本を複写してくる元の異世界はどうなんだろう。」
「異世界は、基本的に同じ世界の『可能性』ですから、知られている限り、物理法則や惑星の条件は同じですね。たまに地形が大きく異なる物はありますが。このダンジョンがもっと成長すれば、魔法がある異世界の本も入手出来るかもしれませんが、魔法世界の魔道書があっても魔法は使えないでしょう。」
「魔法世界の?」
「既にこの図書館にも『魔道書』はいくらでもありますから。もちろんそれらを読んでも魔法は使えません。もちろん、そういう固有法則を持つダンジョンの中なら『魔法が使える』ということになりますが。」
【中山競馬場ダンジョン】
急造の土コースが一直線にダンジョン影響圏の端まで延びている。といってもせいぜい1km程度だが。相変わらず芝コースのはずの場所は野菜畑。
「本日の予定だが、1対1で走る伝統的な競馬の他、笠懸、犬追物を行い、最期は流鏑馬の後、中山グランプリとなっている。」
弼馬温の孫浩懿が出迎える。
「残念ながら犬追物は参加出来ませんでしたが、中山グランプリは勝たせてもらいます。」
とラージャ。犬追物は12名のチームが3つ、さらに犬が150人も必要とポロ以上に大がかりな競技。
「騎馬が総・武蔵・相撲、犬が毛の対抗戦だ。犬猿の仲と言うとおり、犬はあまり好かぬが。」
犬追物は騎手が塗料付きの鏑矢、犬は柔らかい刀や槍などを使用し、双方とも目に当たらないよう眼鏡を着用する。各チームの騎馬武者が何人の犬を『倒した』かで勝敗が決まり、犬が騎馬武者を『殲滅』したら犬の勝ち。
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「マリーさん、犬追物って、こんなペイントボールみたいな競技だったのか。」
「男衾三郎絵詞でも、屋敷の外を通る修行僧を鏑矢で射ていますし、埼玉では普通のことですね。この世界の鞠孔流弓馬術、そう呼ぶ異世界由来なのか、この世界に持ち込まれるときに商標の問題で変更されたのかは知りませんが。それとは違います。」
もちろん、男衾三郎絵詞は遠く伊勢で書かれた物で、埼玉の描写には多分に誇張が入っていると思われる。
【中山競馬場ダンジョン】
「1番、大桑栗毛。騎手は田中伊織、人馬とも毛の国、群馬郡金井村から来ました。群馬こそ馬の本場だと示すとのことです。」
実況は猿獣人の袁総生。馬上では古墳時代風の甲と冑を着けた中年男が手を振る。
「2番、船曳黒。奥州産の漆黒の三春駒。騎手は石田平馬、東の国、馬場城から……。」
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「案外普通ですね。動物の馬が多く馬脚が少し。もっといろいろな動物や獣人が馬として参戦するかと思ったのですが。」
「騎手の方が多彩だな。人間・修羅・畜生に餓鬼まで。」
「幅1mも無いゲートに収まる必要がありますから、ゾウはダメですね。この世界に居るか分かりませんが。」
「マリーさん、斤量は決めていないのか。」
「下限だけですね。武士が自分の馬で参加することが多い以上、揃えるのは非現実的です。下限は少し軽めにして修羅が有利になるように設定しています。」
小柄な獣人には重りを持たせることになる。