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411:お客様(参考地図あり)

【越の国・頸城郡の北の方】


 (こし)国府・今池の北西、転送陣315の端から300kmほども離れた場所。

挿絵(By みてみん)

郡司(ぐんじ)様、三角草野からお客様です。自分はセン人とはいえ男なので望遠鏡を使うことは出来ませんから、郡司(ぐんじ)様がお願いします。」

 同じような顔をした数人の修羅が斜面を登ってくる。上半身裸でスカートを穿いており、うち1人は禿頭でこの地域の習慣に合わせて棒の先に笠を載せている。つまり使者だ。別の1人は黒地に黄色く正三角形を3つ並べた三つ鱗の旗指物を背負っている。おそらく三角草野の旗であろう。

「ああ、もう、三島(さんとう)郡にでも行ってくれたら良かったのに。面倒。それに、セン人は望遠鏡で景色を見たって構わないと思うんだけど。」

「こちらが決めることではありませんから。お客様がどこに来るかも、望遠鏡の使い方も。」

 この世界では望遠鏡で女は景色しか見てはならず、男は女しか見てはならない。というのが常識。なお、(こし)では大多数の男はサド金山でセン人になり、繁殖には種牡人を使用する。

「紫蘇の塔に繋いで『ふぁりごーる』呼び出して。シンブンキシャなんて、どうせ暇しているでしょ。」


「ロスマリヌス・オフィキナリス・紫蘇図書頭(ずしょのかみ)・マリーです。ファリゴール(タイム)はダンジョン外に居るので、わたしが話を聞きます。」

 いきなり大物かよ。と思う頸城(くびき)郡司(ぐんじ)

「三角草野から訪問者。人数は4人。おそらく使者。」

「たった4人ですか。攻めてくる訳では無さそうですね。鉄条網は越えさせないようにして、通話を繋いで下さい。」


「カレクス・ディスパラータ、笠を編む者。三角草野から来た。」

 鉄条網の外に来た修羅が話す。カレクスなんとか、は種類であり個体名では無い。

「ロスマリヌス・オフィキナリス・紫蘇図書頭(ずしょのかみ)・マリーです。画面越しですみません。早速ですが、(こし)の村に雑草を植えたのは、あなたがたですか。」

「いや、断じて雑草など植えていない。それで、この刃物だらけのヒモは何だ。」

「有刺鉄線。土地を区切ってお互いに越えないよう分けるものです。」

(こし)で大々的に何かやっているので確認に来たが、紫蘇修羅が関係していたのか。」

「誰かが(こし)の村に雑草の種を播いていて、このままでは凶作になるので、外との行き来を規制しています。」

「通せんぼされると困るんだけどな。」

「交易ですか。なら場所を決めて関所を作るよう(こし)に頼みますが。」

「いや、無償の支援だ。(こし)の人間どもがイネ科なんか栽培しているから、カヤツリグサ科の植物を栽培するよう種を播いた。」

「……それを雑草と言うのです。(こし)で米が収穫出来ないと、わたしのダンジョンに飢えた難民が押し寄せて困ります。」

「イネ科、イネ科、イネ科。そんなに穀物が大切なら、コウボウムギを植えれば良いじゃ無いか。地味とか日陰者とか見分けが付かないとか、散々な扱いをして。特に我々カレクス属は不当な扱いを受けている。だいたい、あんた紫蘇(ファミリー)だろ。チアではなくイネなんて植えて恥ずかしくないのか。」

 冷静さを失い、使者にあるまじき口の悪さとなるカヤツリグサ修羅。なお、チアとはサルビア・ヒスパニカ、中米で栽培されているシソ科の穀物。

「人間は米を好みますからね。無理に変えさせるものでもないでしょう。それと、なぜ今年になって急に雑草の種なんか播きだしたのです。」

「雑草と言うな。なぜか。だが、ダンジョンの広さは46イテルゥが限界と思われていた。しかし、一昨年(おととし)の冬、ダンジョンはさらに大きくすることができる。と分かった。」

「一昨年ねぇ……。」

 思い当たることが。46イテルゥは100リーグ、482.8km相当だろう。

「三角草野をさらに広げるなら、より多くの者にイネ科では無くカヤツリグサ科を広めないといけない。餓鬼や肉食の畜生には牧草も穀物も不要なので仕方ないにしても。」

「やっぱりカヤツリグサ(ファミリー)のダンジョンでしたか。」

「三角草野を統括するのは、シペルス・パピルス、太陽に愛されし者猊下。神ガヤツリとも呼ばれる半神(はんしん)の一族だ。」

「阪神の紙蚊帳吊、パピルスですか。それで、ダンジョンを広げることには成功したのですか。」

 パピルスは紙蚊帳吊なので、神と言ったとは分からないマリー。猊下ということは坊主の類か。

「いろいろ試した結果、サブコアを特定の場所、方位は真北と南西・南東へ等間隔3方向、距離はダンジョンの端、正確には46イテルゥ1390メフの場所に設置すると、サブコアを起点にダンジョンを拡張出来る。と分かった訳だ。」

「それ、機密ではないのです?」

「無論、重大な秘密だが、そもそも、紫蘇の塔を研究したんだから、そちらには既知の話に過ぎない。」

 知らなかったけど、知らなかった、とは言わないマリー。

「とにかく、雑草だろうとカヤツリグサだろうと、田畑に勝手に植物を植えるのはやめてください。」

「良い事をしているのに、なぜ止めないといけないのか。」

「良い事だろうと悪いことだろうと、急いで無理矢理変えるのは悪影響の方が多くなります。交易の話ならいくらでも協議しますので、書状を戴くか、こちらから使者を派遣したいと思います。ても、種を播くのは受け入れられませんから、今日はお引き取り下さい。」

 カヤツリグサ修羅達は不機嫌な顔をして帰って行った。

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