041:馬が欲しい
【ダンジョン前広場】
マリーが騎士団の閲兵式を行っている。
ダンジョンマスターは安全のためにガラス越し。窓はダンジョン構造物なので龍が体当たりでもしない限り壊れない。別に『悪政で住民に酷く恨まれていることを重々承知している』という訳では無い。名前付きモンスターは政治的テロに遭っても復活できるが、ダンジョンマスターにはそういう能力は無いと思われるため。もしかしたら命が9つあるかもしれないが、試すわけにもいかない。
なお、ダンジョンマスターが死亡した場合、ダンジョンは崩壊しモンスターも消滅するが、名前付きモンスターは残る。ただし以降は死亡しても復活出来なくなり、いずれは寿命で死ぬ。
【コアルーム】
騎士団の閲兵式を終えたマリーがコアルームへ来る。ラージャは騎士団と訓練。
「『馬揃え』って言うのに馬が居ないなんて。それにしても、比企一族が連れてきた馬を捕まえられなかったのが残念です。」
「いずれはスレッジハンマーと娘のウォーター、あるいはコウベトムキャットとかを育てて競争させたいな。」
「マスター、ベトナムキャットとやらで競争なんかさせている余裕はありませんよ。……確かに、中山競馬場ダンジョンがまだ生きていれば、競走馬を入手出来るかもしれませんが、当面の馬の役割は、騎士団を編成して海賊からの防衛、農業の効率化、そして荷物の運搬。つまり、軍馬・農耕馬・荷駄馬で、競走馬は使い物になりません。」
「この世界、馬の品種は一緒だったりして。」
「確かに、おそらく三春駒みたいな感じの在来馬でしょう。大きさや体格や性格で用途変えるみたいな。」
玩具の三春駒では無く本物の馬の方。
「マリーさん、代官、馬を見つけて来るかな?」
「あの代官……騎士団が岸団だったみたいに、馬も相馬だ有馬だと単に名前に馬が付く人間だったり……。」
「馬獣人ならともかく……ん、獣人って使役できるのか。」
「当然可能だと思いますよ。普通の獣人でも、知能のないダンジョンモンスターの獣人でも。名無しのダンジョンモンスターでも簡単な命令はできますから、おそらく牛頭馬頭なら軍用にも農耕用にも使えるでしょう。」
「本来は、牛頭馬頭が本の管理も農耕も防衛も担う設定だったのか。」
牛頭馬頭では無い。
「牛頭馬頭……そういえば、以前、このダンジョンでは司書の『輪廻転生』や『死体憑依召喚』は出来ない。という話をしましたね。」
「さすがに覚えていないな。」
「今、このダンジョンには1000人以上の人間がいるので、司書の輪廻転生……やはり無理ですね。『ダンジョン大百科』の内容を思い出してみましたが、入植者はダンジョン自体には所属していません。」
「あ~、ダンジョン的には外から来た冒険者と同じ扱いなのか。」
「ダンジョンに『所属』しているのは、マスターとモンスターが5人の計6人だけですね。召喚出来るのは紫蘇(修羅)と、いくらかの害虫のみ。裏口的にカブトエビやホウネンエビは雑誌の付録として入手可能ですが、これらもダンジョンに『所属』はしませんし、水田雑草も無いような砂漠では、あまり意味は無いかと。」
「5人というのは少ないんだろうな。」
「モンスター無しでの罠特化というのもあるそうですが、一般的に見たら少ないでしょうね。とはいえ、このダンジョンでは名無しモンスターにさせられることは少ないですし。騎士団用に馬でも召喚できれば良いのですが。」
「さすがに『童貞』シンガリアドルフは時代が古すぎるが、『ダッチロールの怪物』ハネダブライアン、『無敗三冠』アルマゲドン、『茶色の狂犬』ゴールドスミス、『アルマゲドンの最高傑作』ベイパートレイル、あと……。」
「その『怪物』とか『狂犬』ってのは武将が好みそうな二つ名ですね。伝説の名馬だと生食というのが居て『肉を与えたら食べそう』と言われていたそうです。この世界にも居たかは分かりませんが。マスターは競走馬しか知らないと思っていましたが、軍馬も知っていましたか。」
れっきとした競走馬である。
「実際、自動車を召喚する訳にも行かないからなぁ。マリーが言うように、馬というのも妥当な選択肢か。」
「模型ならともかく、さすがに本物の自動車を作る分冊百科も見当たりません。それに万が一『自動車ディーラーダンジョン』なんてものを見つけても、道路が無いので速度が出ない上に故障し、基礎工業力が無いので整備出来ず、電池がダメになったら捨てるしかありません。技術レベル的に鉄砲は探せばあると思いますから、ダンジョン産兵器を別にすれば、この世界では竜騎兵が最高戦力でしょう。」
三冠馬は著作権が切れていないため偽名です。そう言う名前が付いている世界もある。と思って下さい。




