407:崖の下は三角草野(参考地図あり)
【越の国・サドの西・平地の端】
図書館都市ダンジョン影響圏の端から100kmあまり。越の北端は平地から高くなっており、その北は数km下の低地、三角草野へ続く斜面となっている。村にあるのは稲刈りの終わった水田では無く、枯れた草が広がる荒れ地。
「これが、マリーさんが言っていた雑草ですか。冬なので枯れた草ばかりが生えているけど、これはひどい。」
新聞記者のファリゴールはマニュアル車免許持ちなので、ダンジョンからの電波制御無しでも車を運転出来る。とはいえ、ここは影響圏端サイタマイルタワー視界内であり、それでも往復200kmは車の航続距離がぎりぎりだが。
「収穫はゼロ同然だったとのことです。」
案内した三島郡司が答える。
「あの下の方に広がっている砂漠は三角草野の影響圏でしょう。かなり高さが違います。急斜面なので降りたら戻ってこれなそうです。」
斜面の下は土地が低いため、かなり遠くまで見えるが、状況はよく分からない。
「この斜面の下は三角草野だが、このあたりでは草原はずっと向こうだ。そして、越の者が行くと、空飛ぶ草鞋に襲われる。」
「空飛ぶ草鞋ですか。見てみたい気もしますが、挑発は止められています。相手の影響圏に入らないように、飛行絡繰で様子を見てみます。」
そういうと、ファリゴールは持ってきたドローンを飛ばす。ドローンは小型の望遠鏡をぶら下げているが、それでも視界の遠くは良く見えない。
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「マスター、現地の映像が入ってきました。解像度は期待したほど良くはありません。あと、この世界では江戸時代と同じく、望遠鏡で女は景色しか見てはならず、男は女しか見てはならない。という常識がありますが、わたしは性別が無いので制約されません。」
「不便だな。旗振り通信は女が望遠鏡で信号を確認して男が旗を振るが、どちらかが風邪を引いたら止まってしまう。」
「わたしが心配することではありませんね。じきに光通信に置き換わりますから。」
「三角草野は、かなり標高が低いな。」
「異世界で言うところの深海平原相当でしょうね。気圧が2~3倍になるでしょうから、戻ってくるときに減圧症になりかねません。徒歩なら所要時間がかかるので減圧症の症状は出ないでしょうが、車だと危険です。もっとも、見たところ車で登ってこれる斜面では無さそうですが。」
「確かに急傾斜だな。人でも登るのはしんどそうだ。ということは、この斜面を天然の城壁と見なせば、比較的容易に三角草野の膨張を止めることができるのでは。」
【越の国・サドの西】
「この崖に沿って、一定間隔で何らかの施設を作って所有権を主張すれば、仮に破壊されてもすぐにダンジョン影響圏に組み込むことはできません。」
ファリゴールが三島郡司に言う。
「街道だけでは駄目ですが、茶屋でもあればダンジョン影響圏には組み込むことができません。どの程度の施設が必要なのかは図書館都市に確認します。」




