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004:人間牧場と六道輪廻

(説明)

【コアルーム】


 入門マニュアルの『ダンジョン・ワンノーワン』すら放り出したマスターと異なり、ダンジョン大百科を全部読んだマリーは、ダンジョン運営の基本を覚えた。が、身につけたかは不明。

「まず、基本の基本、ダンジョンというものは、侵入者、大抵は冒険者となりますが、その感情や生命をエネルギー源として成長します。宝物をエサに冒険者を呼び寄せ、モンスターや罠で仕留める、食虫植物のような存在ですね。」

 そこまではマスターも知識として持っている。

「本の怪物に喰わせたり?」

「……今のところ、そういうモンスターは居ませんし……どうやら、あまり図書館は普通のダンジョンには向きませんね。」

「どうやって冒険者を本で倒すか。か。」

「すぐに倒す必要はありません。食虫植物が虫を食べなくても生きていけるように、ダンジョンコアは世界のコアからも力を得ていますから、冒険者が来なくても維持は可能、というより、大百科によると世界のコアからのエネルギーだけで維持出来るよう運用するのが基本です。ただ、やはり冒険者が来ないと成長は困難です。」

「倒すのは無理としても、感情を動かす何かがあれば。かな。」

「おそらく、長期的には『人間牧場』を目指すのが良いと思います。」

「人間牧場?」

「ダンジョン内に人間、もちろん修羅でも畜生でも餓鬼でもかまいませんが、住民を住まわせてその感情を収集します。」

「気が長い話だな。」

「基本的にダンジョンは居住には向きません。『薄暗いじめじめした所』でモンスターの巣窟ですから。」

「確かにこのダンジョンは違うな。」

「図書館ですから、適度の証明と空調は確保可能です。また、ダンジョンの特性としてゴミは吸収されますので、衛生面でも人間牧場に向いています。そして、図書館という特性を生かせれば良いのですが、深刻な問題があります。」


 マリーは続ける。

「今後、図書館ダンジョンを図書館として機能させるためには、専門職の『司書』が必要になってきます。」

「紫蘇でも始祖でも秘書でも無く……まぁ済んだことだし、使徒とか混ぜなかっただけヨシ!」

「地獄図書館の馬頭めず、おそらく牛頭ごずも居て役割分担をしていたと思われますが、どちらか、あるいは双方が『司書』ですね。でも、オリジナルモンスター『紫蘇』に置き換えられて召喚できません。」

 別に馬頭では無かったのであるが、もはや確認できない。

「で、ダンジョンモンスターとして司書を召喚出来ない以上、異世界で亡くなった図書館司書を『輪廻転生』や『死体憑依召喚』で呼んでくる。となるのですが……。」

「問題があると?」

「まず、通常の、知識を失う輪廻転生は死因は無関係、というか解脱しない限り基本的に死ねば転生しますが、知識を保ったままの異世界転生や死体憑依召喚では、死因はトラックが望ましいそうです。ただ、これは必須では無いので問題ありません。老衰だと知識が揮発している危険があり、事故死が望ましい。程度の理由に過ぎません。」

「あんまりにも呆けていたら困るな。」


「問題はこの後です。まず、異世界転生の場合、転生者は当然赤ん坊ですから、まず両親を用意しないといけません。しかし、このダンジョンは親となる人間を召喚出来ません。」

「『紫蘇』しか居ないから?」

「そう。修羅は植物同様に種子やクローン体で繁殖しますが、誕生時には人型形態を取れず脳が無いので、転生しても知識を保持できません。前世の記憶を『思い出す』のがいつであっても、最初から知識を脳に入れておく必要があります。なお、畜生も脳容量が小さいため、知識の多くは失われてしまいます。もちろん牛頭馬頭も頭は牛馬ですから制約があります。餓鬼に至っては最初は石ころですから論外です。」

 マリーはずいぶんと餓鬼が嫌いなようだ。


「もう1つ、『死体憑依召喚』と言って、生贄を犠牲にして異世界の死者の魂を転生させる方法がありますが、残念ながらダンジョン大百科には詳しい手順は記載されていません。」

「それ、明らかに邪悪な儀式だろう。」

「でしょうね。と、言うわけで、ダンジョン大百科に記載されていない別の方法が無いなら、当面は『司書』無しで運用することになります。」

 ここに図書館ダンジョンがあるので、図書館学の本などいくらでも召喚出来るが、知識だけでナントカなるものでは無い。


「さっき人間牧場って言ったけど、もっと成長が早く寿命も短い家畜ではダメなのか? それこそ召喚リストの最後の、シバンムシ・チャタテムシ・紙魚とか。」

「そのあたりの虫はもちろん、犬猫でもダンジョンのエネルギー源にはなりません。六道輪廻のうち、いわゆる『知的生命体』だけですね。」

「六道輪廻?」

「魂は行いにより6種類のどれかに転生します。まず天道。デーヴァとも言い、神とか天使とか名乗っている連中です。ただし、神でも一部のエジプト神などは畜生です。ダンジョンモンスターとしては、基本的にコストだけ無駄にかかる役立たずですね。寿命は長いですが最後は悲惨です。」

 被造物では無い『唯一神』は含まれないため、ダンジョンで召喚し使役することは出来ない。

「次に修羅道。光や水と言った共通の資源を奪い合う戦いの世界、つまり植物界です。食事に贅沢を言いませんが、大抵は日光浴が好きですから、洞窟型のダンジョンには向きませんね。性格的には個人主義であまり他人には干渉しません。

 転生の対象としては、わたしみたいな修羅も、普通の植物も含まれます。」

 修羅は一般に自尊心が強く他者を見下す傾向があると言われる。「大智度論」によると修羅は何を食べても泥水の味しかしないともいうが、単に味覚が英国面なだけか、植物は泥水を啜るためか。繁殖方法は種子やクローン体であり人間体には生殖器官を持たない者が多く、骨格が骨では無く木材系なので体重がやや軽くなる。

「その次に人間道。もっともありふれた種族で、きわめて高い繁殖力が特徴です。ガーデンに人間を住まわせると、たちまち大繁殖して他の種族を駆逐してしまうため、『人間テロ』という嫌がらせがあります。なお、文脈によっては『人間』に修羅や畜生も含むことがあります。例えば『人間牧場』ですね。」

「その次に畜生道。動物ですね。動物界。『畜生』という単語は普通の動物も指すため、区別するために『獣人』と言ったりしますが獣とは限りません。哺乳類のみならず、鳥も魚も虫も畜生で、34億種類も居るそうです。

 畜生に関しても、転生対象は普通の動物も含みます。」

 二足歩行も可能な動物(例えばピーターラビット)、頭や手足が動物で骨格は人間(牛頭馬頭やミノタウロス)など「ケモ度」は多彩だが、哺乳類系の場合、大抵は少なくとも耳・尾・足は動物。ただしゴリラ獣人など尾が無い場合もある。なお、普通の動物との厳密な境界は無く、ダンジョンエネルギーが得られなければただの動物。って程度。

「さらに下に餓鬼道。つまり鉱物界です。飲食が出来ず慢性的に飢えと乾きに苦しみますが、アルコールやエーテルは呑むことができます。これらが尽きると仮死状態になり餓死はしません。ただし、餓鬼は石材ほどの強度は無いため、長時間放置すると風化してしまいます。もちろん、名前無しのダンジョンモンスターの場合、飲食は不要ですから、飢えに苦しむのは名前つきや野良ですね。

 餓鬼に関しては、普通の岩は無生物なので輪廻転生の対象外です。」

 餓鬼の骨はシリコンを多く含むが珪素生物では無い。その分体重は重い。鉱物界に属するため餓鬼は石材や金属の扱いに長ける。溺れても仮死状態になるだけで溺死はせず、少々の火では火傷をしないのも強み。

「そして最後が地獄道。わたしももちろん行ったことはありませんし、良くは知りません。」

 修羅が植物。っていうのは仏教の経典とは無関係です。ファンタジー世界のエルフと異なり、通常、魔法は使えないし弓を扱う細マッチョでもなく戦闘では役に立ちません。

 修羅が植物なので博物学の「3界」に由来し餓鬼は鉱物になりました。ドワーフ同様に石や金属の扱いに長け酒飲みですが、アルコールやエーテル以外は消化できません。高濃度のアルコールなんて普通はありませんから、餓鬼は飢えに苦しみます。

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