397:サツマイモとカマンベールチーズ
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「マスター、火浣布の山の住民、火鼠はラットですが、ラットが好むのはサツマイモとカマンベールチーズです。サツマイモは甘藷なのでこのダンジョンでも栽培されていますが、カマンベールチーズは特殊なカビで熟成させますから、残念ながらこの世界には技術がありません。」
「チーズを産するダンジョンとか無いか。」
「わたしは知りません。このダンジョンでも眷属のエサとしてビールは入手出来ますが、おつまみはありませんね。」
「チーズは発酵食品だったな。」
「隅田屋さんが、くだらない酒を造っています。また、味噌・醤油なども一般的ですが、チーズは知られていませんね。バター、つまり牛酪は存在することはしていますが普及していません。」
文字通りくだらない酒。もっともこの世界、海が無いため下り酒は少ない。
「まず牛から殖やさないといけないか。」
「牛は繁殖力が低いですからね。なかなか殖えないでしょう。それに、この世界の牛は改良の遅れた役牛です。畜産ダンジョンがあれば異世界から乳牛や肉牛を……でも、このダンジョンでも牛を殖やしたいなら、牛を名前付きモンスターにしないといけませんね。」
「名前付きは数が限られるな。それに、牛に名前を付けたとして牛自身が名前を認識できるか……それは大丈夫か。」
牛も名前を呼べば来る知能はある。ダンジョンのエネルギー源にはならないが。
「でも、各品種最低1つがい、近親交配を避けるためには複数用意する必要があります。そうなると名前付きの枠は足りないでしょうし、ダンジョンモンスターとしてではなく、このダンジョンで雑誌の付録として種を複製召喚するように、何らかの裏口が必要ですね。」
「雑誌の付録に生きた牛は付かないだろ。どういうダンジョンのどういう産物なら、ダンジョンモンスターではない生きた牛が手に入るのか。」
「それこそ、牛肉や牛乳を産するダンジョンを探す方が速いかもしれません。ですが、火鼠に食べさせるのはエネルギー効率が悪すぎるでしょうね。」
マスターが最初にダンジョン居住区の冷蔵庫を開けたときには豚肉と牛乳はあったが、既に記憶には無い。
「まず乳牛を確保して、チーズの製造を試み、動物のラットに食べさせて安全性を確認し、それから火鼠達に食べさせる。か。長いな。」
「ムック本の付録も、野菜や花の種は入手出来ますが、家畜や芋などで殖やす植物には無力ですからね。そして、このダンジョンが図書館である以上、書籍以外の入手には制約があります。」
「鉢植えとか備品で入手出来れば良いが出来ないんだよな。」
「本来の仕様では生物は入手出来ないので、備品の鉢植えを複製召喚しても鉢と土しかありませんからね。」
「これ、動物園ダンジョンで動物を召喚しようとしても、空っぽの飼育スペースだけが複製召喚されたりするんだろうか。」
「動物園は動物を外へ出荷するものではありませんから、ダンジョンモンスターの動物が召喚されるのではないかと思います。牧場ダンジョンの場合は興味深いですね。法律上、牧場の牛や豚は生きたまま出荷し、基準を満たした施設で肉にしないといけません。もちろん、この世界に異世界の法律は適用されませんが、ダンジョンの仕様ではどうなっているのか。」
「この世界、肉はダンジョンモンスターを倒せば得られる場合が多いが、いわゆる『ドロップ品』だから、牧場とは違うな。」
「冒険者にとってもモンスターの死体を手に入れても解体しないといけませんし、ダンジョンも少量の肉だけ提供する方がエネルギーの節約になりますからね。そういうダンジョンが残っているのでしょう。例えば佐倉牧ダンジョンの馬は倒して肉にするしか使い道がありません。」
「それでは佐倉牧ダンジョンではなく桜肉ダンジョンじゃないか。」