396:練馬大根畑
【練馬大根畑ダンジョン】
「それで、紫蘇科が支配する隣の巨大ダンジョンとの関係性だが。」
練馬大根畑ダンジョン代表の大根修羅、練馬大根が言う。図書館都市ダンジョンの南方約180km、普通に考えたら遠方だが、図書館都市ダンジョンの巨大化ですっかり三方を囲まれている。
「練馬殿、ダンジョンは外征に弱く守りに強い。亀のように守りを固めておけば、攻められることは無い。」
亀戸大根が答える。
「しかし、ひたすら守るだけで良いのか。もっと視野を広く持ち、打って出る、は無理にせよ、攻め込む、は相手が居ないが。でも、何かしないと、野菜の大根を育てて人間達に収穫させるだけでは未来は無い。」
三浦大根が続ける。
「でも、三浦さん、どこへ行くんだ。砂漠で迷って干し大根になるだけだぞ。」
と、亀戸大根。
「確かに陸では方向音痴だが、按針技能で水上なら方位が分かる。せっかく紫蘇ダンジョンが池を作ってくれたんだから活用しないと駄目だ。例えば船を買うなり造るなり。」
「船となると、ダンジョンの力と金銭。この2つの財政問題が生じる。」
大蔵大根が異議を挟む。
「それにしても紫蘇科というのは意外だな。地味な一族だと思ったが。」
「練馬殿、紫蘇科もかなり多い一族で、少なくとも、油菜科の中でも大根しか召喚出来ない練馬大根畑ダンジョンよりは勢力を増しやすいはず。」
「三浦さん、大根だけと言いますが、甘藍や山葵や撫菜は大根では無いので、大根ダンジョンに居たらおかしいでしょう。」
「修羅で威張る、というか蔓延っているのは、自称『最も進化し、最も分化している一族』で頭がお花畑の菊科、自称「高等種族」で腐りきっている蘭科、窒素固定できると威張り散らしていている豆科。次いで下等植物の稲科、この辺には少ない茜科と来て、次が紫蘇科だ。数が多いのは何も不思議は無い。」
三浦が偏見まみれの評価を下す。
「つまり、敵に廻すには面倒な相手か。かといって味方にしても利益は無い。」
修羅は利害で動く。練馬大根もまた、図書館都市ダンジョンとの関係を利害で考える。
「いくら隣が水と肥料を潤沢に利用できる農業ダンジョンと言っても、ダンジョンの影響で育ちやすくなるのはシソ科を中心にせいぜい比較的近縁のゴマやナス程度。大根に関しては圧倒的に有利だ。」
三浦大根は断言。
「つまり、人間を呼び込むという点でも直接競合はしないはずだな。」
と、大蔵大根。
「大蔵さん、むしろ人間を殖やしてくれるありがたい存在とみることも出来そうだ。媚びないが敵対もしない。で良いだろう。」
練馬大根がまとめる。