395:工場ダンジョン
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「競馬場ダンジョンは、農作物も鉱物資源も工業製品も産しないダンジョンですから、このダンジョンの役には立ちそうにありませんね。」
「そんなことを言ったら、何も産しないどころか、何か疲れるだけの峠道。なんてダンジョンも多いが。」
「俗に言う『ヒダル神』ですね。この世界では単にダンジョンに直接エネルギーを吸われて低血糖状態になっただけですが、たまに遭難者が出るので放置もできません。転送陣での迂回を促してはいますが、転送陣も高コストという問題がありますね。」
「マリーさんが必要と思うダンジョンはどういうものか。」
「今、一番役立つのはホームセンターダンジョンですが、中長期的には各種の工場ダンジョンでしょう。実際に工業製品を作るとなると、書籍の知識だけではどうしても限界がありますから。」
「このダンジョンが結果としては農業ダンジョンで、商都梅田が商業ダンジョン。工業ダンジョンがあるとしたら……やはり工業地帯だろうか。」
「飛行機工場なら飛行機が、自動車工場なら自動車が入手出来るはずですが。小笠原プロダクションの飛行機工場なら、城丹県の洞ヶ峠と滋賀県の蒲生付近。自動車は……。」
「確か横浜市と大阪市だったか。」
「それは、どちらもアメリカメーカーの組み立て工場でしたが、自動車運搬船の普及で廃止されていますね。日本メーカーはどうしてもアメリカ車に比べ品質が劣りますから、自動車工場の優先度は低いと思います。」
もちろんマリーの知識によるもの。世界によっては状況は全く異なり、旅客機は生産されておらず逆に自動車は一流だったりもする。
「飛行機工場は城丹と滋賀か。この近くでは無さそうだな。」
「元々が1923年に京都の映画制作会社として設立され、叔父が飛行機生産用に引き取ったという経緯ですね。日本の三大航空会社が1922・23年設立ですから同時代と言っていますが、実際には少し後です。最初の旅客機は操縦士2人と乗客8人しか乗れませんでしたが。」
1922~23年にタクシー会社・新聞社・航空機メーカーがそれぞれ設立。
「さすがに商都梅田付近では遠すぎて手が出ない。」
「別の異世界のコロモ飛行機サナゲ工場なら少し近い場所ですが、これも遠いですね。」
「コモロ?」
「小諸ではなく、挙母飛行機猿投工場。その異世界では、世界第二位の旅客機メーカーにして、市内製造業でも2位とのことです。」
「読めないな。」
「それは仕方ありませんね。漢字普及以前の古い地名はそういうの多いですから。異世界によっては、面倒になって市は改名し、挙母飛行機も改名を検討したものの商標などの関係で辞めた。という世界もあります。」
「で、猿を投げると? 秀吉がその辺だったか。」
「秀吉は尾張ですが、似たようなものでしょう。」
図書館都市ダンジョンは武蔵にあり、マリーの設定上の経歴は比企なので、遠方に関する情報は不十分。
「この世界だと身終の国か。」
「はい。とにかく、冒険者達にはダンジョンを探す依頼を出していますから、工場ダンジョンがあれば、いずれ見つかるでしょう。」
「見つからなければ?」
「地道に工業化するしかありませんね。文献すら無い状態で全くのゼロから開発するなら『創造力』を持つ民族をどこかから探してこないといけませんが、知識は既に存在するのですから、高等民族であるこの世界の修羅に出来ないなんてことはあり得ませんから。」




