394:競馬開催準備
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「と、いうように、マスターのお望み通り、中山競馬場ダンジョンへの接触を行いました。取り急ぎ指示が必要でしたら現地のラージャに伝えます。ただ、わたしは馬は必要ですが、競馬場は馬産地という訳でも無いですから、あまり乗り気ではありません。」
「そうなのか。吾輩は今から年末の中山グランプリが楽しみだが。ぜひ現地観戦したいが、ダンジョンマスターはダンジョンを離れることが出来たか。」
「影響圏外と言っても距離的には近い視界内なので、遠方と異なり行く事は可能と思われますが、安全が確保出来ません。ダンジョンごと隷属でもさせれば別ですが、このダンジョンにそういう機能はありませんし、ダンジョンコアの遠隔操作も、中山競馬場は広さこそ狭いものの、大規模ダンジョンなので無理と思われます。」
「大規模? 半径1kmかそこらでは。」
「あれで最大同時滞在冒険者数は10万人を超えます。」
「それで、競馬場ダンジョンの仕様はどのようなものだろうか。」
「かなり推測が入りますが、感情エネルギーは競馬によるものが効率的に収集され、長期的にはダンジョン維持に必要な生贄も、競馬で人生アウトになると効率が良いと思われます。」
「要するに多くの人を集めて賭けさせる。ということか。」
「そうなりますね。反面、異世界では一般的な現地に行かない賭博では、ダンジョンにエネルギーは入らないと思われます。」
「それは当然だな。で、賭けの金額自体はダンジョンに直接関係はしなさそうか。」
「賭けは純粋に金銭的な問題ですからね。ブックメーカーが利益を出そうが大損をしようが、ダンジョンには関係はありません。この場合、競馬の運営費用に関しては完全な赤字になりますね。」
「パリミュチュエル方式ではないのか。」
主催者のみが馬券を発売し、売り上げ総額の一定割合を運営費として差し引き、残りを配当として分配する。勝負の結果がどうであれ、売上総額が大きければ主催者は儲かり、少なければ損をする方式で、ノミ屋を根絶できる警察力がないと困難。
「え~と、異世界日本だとそれが主流ですね。ただ、それが可能な社会かどうかは精査する必要はあるでしょう。それ以前に出走馬を集めないといけません。」
「12レース開催で18頭なら216頭が目安か。」
「最初はそこまで馬や馬脚が集まらないでしょうし、運営も慣れずに不手際が多いでしょうから、規模は減らします。馬脚には騎手は不要ですが、公平を期すため騎手は必須にします。馬と馬脚以外……牛は可能でしょうね。あとラクダは相撲の国に居ますね。金太郎みたいな熊は現実的には難しいでしょう。」
「金太郎騎手には『熊に乗れ』って野次が飛ぶのは定番だが。」
「それだと金次郎はキム・チャランですか。あと、ダンジョンモンスターは所属ダンジョン以外では力を発揮できませんから、ドラゴンなどは考慮しなくても良いでしょう。自重で潰れます。」
異世界日本では第二次世界対戦が無かったため、古い小学校には大抵二宮金次郎の像がある。
「飛行生物で可能性があるとすると……。」
「ケツァルコアトルスくらいでしょうね。ただ、大型翼竜は飛び立つのが大変ですから、競馬の距離では馬には勝てないと思われます。」
ケツァルコアトルス・ノルトロピが翼竜。ひっくり返したノー■ロップ・ケツァルコアトルは飛行機だが、有翼の蛇と言うよりエイか何かみたいな三角形。
「つまり、競争となると、やはり馬が中心か。」
「でしょうね。馬は世界で2番目に足が速い動物で、クォーターホースなら時速90km前後に達するそうです。もちろん、今回は競馬なので1kmかそれくらいの距離になりますから、チーターでもクォーターホースでも体力が持ちませんが。」
「馬脚も馬と似たような速さか。」
「はい。ただ、走るのが全員馬脚だと不正がきわめて容易になってしまいます。異世界では文部省が陸上選手が直接走る『競人』を計画しましたが原理的に八百長の根絶が不可能なため断念しています。」




