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392:三度目の収穫祭

【第34層群・中庭】


「みなさん、今年の作付けは去年の倍の40万町歩、生育も順調なため、収穫も倍増し600万石の見込みです。」

 マリーの話に、塔の地上にある第34層群。中庭を埋め尽くした住民達から歓声が上がる。

「現在、西の商都梅田、北東の奥州までの道路を作っていますから、さらに多量の食料が輸出されるでしょう。」

 人間や一部の畜生は穀物を主食とするが、もちろん修羅や多くの畜生は違う。もっとも、牧草はもちろん、例えば修羅の主食である液肥も、ダンジョンの機能で調達するより畑で栽培した野菜から生産する方がダンジョンエネルギーを大幅に節約出来るため、農地は必要。ちなみに、色は汚らしい緑色、味は夏場の藻が湧いたドブの水で修羅以外には不味いでは済まない。



【第三層群屋上展望台・世界樹】


「今年も無事稲刈りの季節になりましたね。」

「我輩は米の飯は好まぬ。」

「栄養的にはマスターには向きませんからね。炭水化物過剰・蛋白質欠乏になります。」

 あと、エナジードリンクでタウリンを補給する必要がある。

「ただ、米を大量に輸出、つまり運び出す場合、ダンジョンエネルギーが枯渇したりはしないのか。」

「制度設計を誤るとそうなる危険性はありますね。これは、鉱石でも武器でも何かを『産出』するダンジョン全てに言えることです。本来の図書館都市ダンジョンは書籍を貸し出しても返却させるのが前提ですから、そういう問題は無視出来るはずですが。」

「ただ、この世界の識字率等を考えると、図書館、江戸時代なら貸本屋でこの規模のダンジョンは維持出来ないだろうな。」

「社会水準が江戸時代程度と言うことを考えれば、物質的では無い娯楽は、相撲や歌舞伎などの演芸と、花見や寺社仏閣などの物見遊山となりますね。」

 あと、狐カフェ。

「つまり、相撲ダンジョンや歌舞伎ダンジョンが有用なのか。」

「別に特化したダンジョンでなくても、人間牧場の住民が歌舞伎などをやっていればダンジョンには感情エネルギーが入ります。実際、歌舞伎のためにあえて遠方のダンジョンまで行く人は少ないでしょう。相撲に関しては勧進元だけでは開催困難で、このダンジョンは力士を抱えていませんから保留とします。」

 大名が力士を召し抱えて生活させる。

「旅をしてまで行く価値があるダンジョンでは無いと難しいか。」

「遠方から観光客を呼ぶ、となると、寺社仏閣ですが、こういうのは建物だけ異世界から持ってきても無意味ですからね。名勝も、ダンジョンで作ったらどうしても『作り物』になりますから、コストを賄うほどの観光客が来るかどうか分かりません。」

「ダンジョンで作るとそういう問題もあるか。」

「あとは湯治ですが、この世界、文化の基本が江戸時代といっても修羅や畜生は基本的に風呂には入りませんから需要が少なくなること、熱湯を使い捨てにするとエネルギーの無駄が多いことから、温泉ダンジョンと言うのは知りませんね。」

「猫啼温泉は?」

「あれは法律上はともかく地質学的には鉱泉です。むしろ穴地獄が地質学的には温泉ですが、高温の酸であり、水を加えて冷やすにも水が無いという問題があります。加水が出来なくても異世界の草津温泉のように熱交換器とか掻き混ぜて空気に晒すとか冷やす方法はありますが、いずれにせよダンジョンだとエネルギーの問題が生じますね。」


「話を戻しますと、このダンジョンで農作物の生産に必要なのは、世界のコアから得られた水と、ダンジョンの機能で生成される肥料、これは本来はダンジョンモンスターの食料です。これらの入手コストよりダンジョンが得られる感情エネルギーの方が多ければ問題ありませんが、少ないと破綻します。」

「なら、農業は機械化しない方が良いのか。機械化したら農業人口は減るだろ。」

「手作業だと疲れますから、同じ人数なら機械化した方が感情エネルギーの収集効率は上がります。ここは、ダンジョン内に十分な住民を住まわせ、かつ良好な生活をさせる。というのが大切で、田畑だけで作物を全部外へ持っていくと収支が合いません。つまり、農業を機械化しつつ、ダンジョン内に大規模な都市を作る必要があります。」

「そうは言っても、この塔は地上に降りるまで高速転送陣でも時間がかかりすぎるからなぁ。それに、これ以上の図書館が異世界にあるかという問題が。」

「この塔の本体以外なら、制約があるとは言え別々の異世界から対応する建物を重複召喚出来ますから、高層ビル併設型の図書館、例えば東京市の麹町・葛飾・赤坂・豊島といったものを複数の異世界から複製召喚して並べれば、塔周辺に多数の住民を住まわせることが可能です。あとは商人達が住民の職場を準備出来るよう手助けすることですね。」

「直接ダンジョンが雇うのは限界があるか。」

「そこまで多数の仕事はありませんからね。北欧みたいな重福祉国家なら公務員は多数必要ですが、年貢に依存した農業都市の租税負担力では無理です。かといって、近代国家への切り替えを急ぐと一揆を引き起こします。」

「地租改正反対一揆みたいなものか。」

「この世界同様、異世界の江戸時代も通常の一揆は示威行為ですが、地租改正反対一揆は実力行使にまで至りましたからね。ゆっくり進むしかありません。」


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