384:地平線へと続く道
【読書村】
ダンジョン影響圏の端、読書村。ダンジョン影響圏内にダンジョンの機能で作られた鉄道が、そのままダンジョン影響圏外へ続いている。ただ、ダンジョン側は地面をダンジョンの機能で固め、その上にダンジョンの機能で作られたレールが載っているが、外側は敷き詰められた砂利の上に、コンクリート枕木と鉄を梯子型に組み立てたユニットが並んでいる。「バラスト・ラダー軌道」と言う物だがどうでも良いこと。
ついでに、ダンジョン影響圏内のダンジョン構造物は設定すれば一瞬で完成するが、ダンジョン外ではいちいち工事を行って作らないといけない。これは重要な相違点。
「浜田博士、線路は問題無く機能ていますか。」
背はマリーより少し低く、比較的がっしりした体格の女に見える。ヘルメットに納まる短髪は光の加減によっては構造色により青紫にも見える黒髪で、明るい青紫の髪飾り。
「側近書記殿、全ての問題は許容範囲内です。暫定的に大餓鬼まで列車を走らせるだけなら、工事は異世界のアメリカ大陸横断鉄道以上の速さで進むと思われます。」
「え、そんなに……優秀なアメリカ人労働者は居ませんが。」
「いくら間に合わせの改造品とはいえ、機械があると効率は決定的に違ってきます。また、地形的にも少なくとも海豚池までは、さほど困難な場所はありません。」
「サック博士、重機と機関車に問題はありませんか。」
東南アジア系に見える、細身で少し小柄の男。ウェーブのかかった短めの黒髪。
「紫蘇長様、異世界から入手出来ず、ダンジョン構造物の解除でも製造できない部品には多少苦労していますが、他は順調です。」
線路の上を、二両編成の新幹線が「梯子型枕木一体型線路」を積んだ貨車を引っ張って通り過ぎてゆく。
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「いよいよ、3,000km離れた商都梅田まで道路が繋がる訳か。」
「正確には道路は不破関まで。ですが。商都梅田の先は針間の国・針山地獄シメジ城まで線路があるそうです。さらに西の黍までは遠すぎて電気が届かないため電車は行っていないとのことです。」
「黍の先はどうなっているのか。」
「『中国』だそうですが、それが中華帝国や中華民国の中国なのか、中国地方なのかは分かりません。ただ、南西の方にある尽と豊は異世界の九州に対応するようにも思えますので、それだと西の端は大陸の中国なのかもしれません。」
「一対一対応では無いかもしれないぞ。西の端にも南西の方にも、なんなら東にも九州があるかもしれない。さすがに北は極地方で場所が無いだろうけど。」
「その可能性も否定できませんね。異世界は無数にありますから。実際、東南東の粟の国は異世界の安房と阿波の要素を併せ持っており、その南には讃岐ならぬ狸の国がありますが、そのさらに南にも阿波っぽい地域があるようです。」
「それで、マリーさん、商都梅田まで道路を作ったら、次はどうする。」
「後回しになっている、奥州・多賀城方面ですね。その次は……その頃には飛行機を製造出来ているでしょうから、その時考えましょう。自動車道の完成には何年も必要です。」