382:鉄の悪魔の誘惑
【第三層群屋上展望台・世界樹】
使節団が帰還しウサギ達は家族とBBQを開催、マリーは海豚池までの地図を作成し道路のルートを検討。さっそく翌日には測量隊がドローンを携え海豚池以西の測量へ出発。と、慌ただしく準備は進む。
「自動車道は幅30m・厚さ30cm程度の鉄筋コンクリートなので、舗装だけで900万m3。石灰石が300万t・鉄が15万t程度必要です。橋梁・擁壁・トンネルに工事用軌道も加わりますから、必要な量はさらに増えるでしょう。」
「トラックが100万回以上必要だな。まだタイヤの制約により大型トレーラーが入手出来ない以上、いっそ鉄道の方が早いか。」
「異世界日本と違って、内航海運が制約されますからね。石灰石輸送で道路が鉄道やベルトコンベアより優れている。というのも88t積みトレーラーが前提で、移動図書館を改造した、というか元に戻した3t積みトラックでは、あまりに非効率になってしまいます。とはいえ、鉄道も問題は多そうですが。」
「自動運転の制御の問題とは言え、既にダンジョン影響圏外では工事用軌道を使っているんだし、今更。だな。」
「大型トレーラーをどこかのダンジョンから調達するか、あるいは量産出来れば、全ての鉄道は無用の長物となりますが、すぐには入手できそうにありませんからね。困りました。」
「当面、大量輸送が必要なのは、穴地獄から鉄鉱石、死んだ鍾乳洞ダンジョンから石灰石の輸送、あと奥州方面と身終方面の道路工事現場までか。」
「見沼が使用可能な範囲は水運で良いですし、死んだダンジョンは、ここから読書村までの途中にありますから、ダンジョン影響圏内で必要な鉄道は、北西の穴地獄方面が500km、北東の奥州方面が800km、西の身終方面1300km……。西、何とかならないでしょうか。」
「いくら運河は効率的とはいえ、標高が高い場所へ水を汲み上げるとなると鉄道より高く付くな。重力制御なんて便利な物は無い。」
「何をするにもエネルギーが必要で、ダンジョンエネルギーは無尽蔵ではありませんからね。雨が降るなら貯水池を作るのも良いでしょうが、この世界は砂漠です。」
【第三層群10階会議室】
「側近書記殿、ようやっと新幹線を使う気になりましたか。」
「ミント、まだ決定では無く検討です。それに、さすがに100年前の技術ですよ。新幹線はちょっと。」
「そこは問題ありません。いろいろ検討を重ね改善を進めています。新幹線には電気自動車の超伝導モーターを搭載します。なお、小型車は50kW、移動図書館で使用されるバスやトラックは大抵150kWでベトン級戦艦はこれを2基積んでいます。異世界日本の移動図書館で最大クラスは帯広や苫小牧で使われている9m中型バスですが、それでも200kWで電車ならともかく機関車として使うには出力が足りません。もちろん電車なら200kWで十分です。」
「それ以上だと重機や高速バス、あるいはスポーツカーくらいでしょうね。」
「そもそも観光バス・高速バスは炭化水素燃料が多く、床面が高いため移動図書館には使いづらく、そこまで大型の移動図書館は通常必要とされないため、ほとんど存在しません。ですが、アメリカ製の45ft高速バスなら400kWの物がありますので、異なる異世界から交換用電動機を8台分召喚します。」
「ミント、つまり用意する新幹線は8両ですか。」
「いえ、図書館備品の新幹線は2両、21-100と22-7007なので、4基づつモーターを組み込み、2両編成で使います。自重118tで出力3.2MWとなり、1,000t程度の貨車を引っ張る事が可能です。貨車が自重15tで35t積みなら20両、貨物は700tなのでトラック200両以上です。」
「けっこうな量ですね。」
「今の電気自動車の蓄電池は基本的に直流1,600Vの『1,600Vアーキテクチャ』ですから、架線に直接1600Vを流した場合、そのままモーターを使用可能です。電気自動車の充電装置は交流6.6kVを直流1.6kVに変換していますから、これを駅などに置いて充電ではなく架線に電気を流します。」
ミントの説明は続くが、どうでも良いことなので割愛。
「それで、元の新幹線はどうだったのでしょう。」
「異世界日本の電車は確か直流1.5kVなので、新幹線も同じでしょう。図書館に資料はいくらでもあるでしょう。」
探せば済むけど、別に本質では無い。
「根本的な疑問ですけど、図書館の備品として蒸気機関車は召喚可能でしたね。」
「え~と、C12 74とか、C58 103とか。複数の異世界から複製召喚することで同じ機関車を複数入手できます。」
「機関車を機関車として改造することは出来ないのですか。」
「構造が全く異なるのでモーターを組み込むのが困難です。」