380:その頃、身終
【身終・山本】
「何も出来ぬか……。」
鉄道も道路も持たない身終。輪形石はあるとはいえ、牛車では時間がかかりすぎる。
「国主様、逆に何もしなくて良い。と言うことも出来ます。何もせずとも道が出来、商人の通行が増え、利益を得ることが出来ます。しかも、この山本はじめ、井口や蓑鴨といった主要都市を通らないため、外の影響も最小限に抑えられます。」
「できれば大餓鬼も避けて欲しいぎゃぁ。」
「大餓鬼、ですか。確かに、その名の通り餓鬼が多いため、なかなか統治が難しい町です。先年、不平分子が万単位で大挙逃散し行方不明となったため、以前よりは敵意は減っていますが。」
長田左馬頭(自称)も桐生六郎も修羅のため、蓑鴨の鳥獣人や蝮の爬虫類獣人はともかく、大餓鬼の餓鬼達とは微妙な関係。さらに北方のネオ谷や東方のヤバ系などの山岳地帯ダンジョンに居る餓鬼達は身終に従ってすらいない。そもそもダンジョンと言うものは国の権力が及びにくい場所ではあるが。
「不安定ゆえに外部の影響は最小限にしたいぎゃぁ。それに、大餓鬼は人口半減の影響が残っているぎゃぁ。」
「大餓鬼は不破関のまっすぐ東にあるので、迂回を要請するのは難しいかもしれません。」
桐生六郎は地図を広げながら言う。
「う~む、不破関から東南東、藤子谷から真北谷へ抜ければ、大餓鬼の南を通ることができるはずだぎゃぁ。」
「その旨、商都梅田と迷迭香の塔へ書き送ります。いっそ地図も渡しますか。」
「さすがに地図は……不破関から海豚池、そして中津までの地図だけ写して渡してやるぎゃぁ。」
行基図よりはマシとはいえ、伊能図ほどの精度は無い。
「それにしても、大餓鬼を去った餓鬼達、どこへ消えたのでしょう。」
「運上金を滞納し消えるとは、けしからん連中だぎゃぁ。」
まさか、餓鬼達が遠く図書館都市ダンジョンで悉く埋められたとは知らない長田左馬頭(自称)。
「餓鬼ですからね。飲食が出来ず酒しか飲むことが出来ず、常に飢えているとはいえ、餓死はせず動けなくなるだけなので、砂漠のどこかで転がっていそうですが。」
「濃尾は比較的酒が少なく餓鬼には暮らしにくいから、逃げるのも仕方ないかや。」
ちなみに異世界日本の人口あたりアルコール消費量最多は東京市。これは近隣県の影響もある特殊例だが、東京に次いで多いのは南九州と東北。逆に少ないのは台湾地方、次いで滋賀から愛知付近。つまり身終は異世界濃尾の影響で比較的酒が少ない地方であり、餓鬼には辛い地域。