378:物量作戦が出来たら良いのに
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「図書館都市始まって以来、初のメガプロジェクトだな。」
「ダンジョン影響圏内ならダンジョンの機能でいろいろ出来ますからね。でも、図書館都市含め大抵のダンジョンは影響圏外では何も出来ませんから、遠方へ交易路を作るなら土木的に道路を作るしかありません。」
「マリーさん、見切り発車に見えるが、大丈夫だろうか。」
「この世界の紫蘇科修羅で、ファリゴールの仲間であるイブキジャコウソウ、ティムス・クインクエコスタータスの一族に工事を発注しましたし、土木専門の浜田博士の同種、ウィテクス・ロツンディフォリアにも依頼しています。その他、可能な限り紫蘇科修羅、近縁のシソ目に属する修羅を呼び寄せています。ただ、技術者の養成が間に合っていませんね。」
「修羅だけでは足りないのではないか。」
「はい。人間や獣人も雇います。ですが、ダンジョンの特性として、主系列モンスターと近縁の種類は『ダンジョンの恩恵』、多少健康になるとか、そういう効果を得られますから、紫蘇科修羅を中心とした方が良いでしょう。この図書館都市はシソ科を中心に近縁のシソ目にもいくらか、那須塩原はナス科中心にヒルガオ科などナス目、丹沢ヒルズはヤマビルなど蛭、穴地獄はコケの一部、猫啼温泉は猫、海豚池はイルカなど鯨偶蹄目ですね。」
「なかなか偏った仕様だな。でも、確か穴地獄はモンスターを召喚出来ない仕様だったはずだが。」
「ダンジョンモンスターで無く一般の修羅や畜生などでも同等の効果はあります。あまり大きな効果ではありませんが、修羅は基本的に自己中心的ですから、些細な違いでもダンジョン内紛の元になります。」
「ああ、百合科みたいに。」
「わたしも直接は知りませんが、酷いことになったようですね。あと、普通の植物でもシソ科なら、成長速度が増したり、気候への耐性が増したりはします。ですから、食料生産という面ではイネ科修羅のダンジョンがあると有利でしょうね。もっとも、稲科は修羅としては面白みの無い草ですが。」
「水田だけで40万町歩あるからな。」
「異世界埼玉人の主食である麦もイネ科ですね。図書館都市ダンジョンでも人間の住民は基本的に小麦や大麦を食べています。米は通貨用ですね。白米を主食にしている人間も居ますが。」
「とにかく、まず1,000kmの工事用簡易仮設軌道を作らないことには何も始まりません。最初に重機で地面を敷き均して地面に直接軌匡という、ダンジョンの機能でレールと鉄製枕木を一体で生成した物を並べていきますが、そのためには多数の重機が必要です。ある程度は複製召喚した自動車や一時的にダンジョン構造物として整形した鉄材を使用することで製造を省力化できますが、それも限界があります。」
「人海戦術という訳には行かないか。」
「人力では労災の危険を排除できませんし、人数が増えたら到底補給が追いつきませんね。なにしろ砂漠ですから食料どころか水すら現地調達できません。電力なら工事に使う程度なら送ることは可能ですが。」
「そんなこと可能なのか。超伝導送電線が入手出来ないなら、電気はせいぜい200kmくらいしか送電できないはずだが。」
「効率は落ちますが、可能か不可能かと言われれば可能です。転送陣を無理矢理部品取りするので無駄が多く、あまりやりたくはありませんが。海豚池から大量に送電できれば解決しますが、スカーレットの報告では海豚池はダンジョン外への送電を拒否したそうです。」
「それだと商都梅田は困るだろうな。」
「電車は常に電気が必要ですからね。しかし、超伝導送電線の製造は到底手に負えない技術的悪夢ですし、今世紀前半の高圧直流送電どころか前世紀末の100万ボルト交流送電すら図書館の備品として機材を入手出来ない以上、敷居が高くなります。」
「商都梅田は確か……。」
「154kVですね。1920年代の技術ですから。なお、転送陣もコアから154kVを供給され、33kVで動作します。一方、このダンジョンの層群には6.6kVや22kVの設備しかありませんから、複製召喚で容易に入手可能な設備という点では見劣りします。」




