376:ごーるでん・おるか
【海豚池ダンジョン】
ウインドジャマーは呼べばすぐに来た。
「はい。海豚池ダンジョンの安寧は重要だが、確かにダンジョンそのものが崩壊したら我々も困るから、崩壊させない範囲でしか協力できない。」
「それやったら、商都梅田みたいに住んどる人数増やしたらダンジョンの力も増すんちゃうかな。」
「確かに、街道が出来て商人が行き来すれば力は得られるが、あまりにも住民を増やすのは危険だ。」
「危険って言うても、冒険者かて池の中やったらそないに脅威はあらへんのちゃうか。簡単に攻略される訳ちゃうやろ。」
「ダンジョンが攻略される危険。というのは少ない。例え誰かがサメでも連れてきても撃退可能だ。しかし、住民が増えたら、その増えた住民を生活させないといけない。過去に際限なく人口を殖やした挙げ句に管理しきれず生活の質が低下、挙げ句に崩壊したダンジョンはいくつもある。だから、ダンジョンは冒険者を呼び込むのは良いが、内部に住まわせて面倒を見る住民は最小限にすべきだ。」
「それやったら、都度都度ダンジョンに生贄を捧げなあかんのやけど、その場合、ちゃんとダンジョンを管理できとるか。っちゅうのが問題になるんや。せっかく生贄を捧げたのに、ダンジョンが勝手に要らんことに使うてしもたら困る。」
「それは大丈夫だ。海豚池には代々『ごーるでん・おるか』を襲名する管理者が居る。」
「ごおるでん愚かって何や?」
「偉いイルカ。という意味らしい。」
金色では? と疑問に思うスカーレットだが、海豚池では英語は伝わっていない。
「図書館都市としては、ミタケさんが言うように、ダンジョン内で充電のみ行い、外への送電は行わないこととします。生贄を用意するのは容易ではありません。」
仮死状態にした餓鬼の在庫は乏しい。いくら図書館都市と言えども、別に攻めてきてもいない餓鬼を生贄狩りまではしない。
「当代の『ごーるでん・おるか』です。話し合いはまとまりましたか。」
海豚池から5mを越えるシャチが顔を出す。別に金色では無く普通の色。陸の者には年齢は不詳だが背びれが鎌形なので雌と思われる。
「協定事項を纏めましょう。まず、図書館都市は、影響圏の端にある読書村から、中津・大井・朱鷺・海豚池・大餓鬼を経由し不破関まで道路を、商都梅田は逆に不破関から読書まで電車を作る。」
スカーレットが、これまでの議論をまとめる。
「ええんちゃうか。井口と蓑鴨を通らへんから、長田左馬頭様も満足やろ。」
「冒険者が増えれば、海豚池も、より充実するでしょう。400年以上、代々受け継いできたダンジョンを、より良くして次の世代に伝えなければなりません。」
ごーるでん・おるか、が言う。なお、海豚池のイルカショーはイルカが勝手にやっているだけ。
「道路を走る車は、海豚池で充電を行うが、電線をダンジョンの外へは引かない。図書館都市から中津・大井へは電線で直接送電、朱鷺には図書館都市から無理矢理送電または大井から蓄電池を輸送、海豚池と不破関の中間に足近村を作り何らかの方法で電力を供給。」
「朱鷺は海豚池から送電した方が早いやろうけど、生贄使わへんのやったらしゃあないな。」
「電車は、商都梅田・海豚池・図書館都市から送電、不破関~大餓鬼と朱鷺~大井の一部は電圧降下覚悟で無理矢理送電、海豚池からの電力供給が不十分な場合は商都梅田から生贄を提供。」
「無理矢理っちゅうのが……。」
「ダンジョンに無理をさせたらいけません。200年前、海豚池ダンジョンが暴走し、近隣の村人1,000人ほどが命を落とした事件がありました。時の、ごーるでん・おるか様は責任を感じ切腹も検討しましたが、刀を持つことが出来ないので諦めたと伝わっています。」
「潤沢に生贄を投入したら暴走はせんやろうけど、生贄の調達の問題が出てくるな。このダンジョンに住んどる獣人を使うたらどうなんや。」
「この海豚池は偶蹄類の安息の地。偶蹄類獣人を生贄にするのは倫理的問題があります。」
動物のシャチには鯨を食べる者も居るが、これは海豚池ダンジョンの獣人の見解。
「電車が走るのは何年も先なので、生贄の問題は先送りで良いでしょう。餓鬼は保存が効きますから、今後、餓鬼が攻めてきたり反乱を起こしたときに捕獲し、必要に応じて使えば良いと思います。」
スカーレットは先送りを提案。
「何年もかける気はあらへんけど、現実問題、明日開通って訳にも行かへんやろな。」