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374:移動可能なダンジョンは無いようだ

【第三層群屋上展望台・世界樹】


「え~と、スカーレット(サルビア)からの通信では……。移動可能なダンジョンは無いか。ですか。」

 図書館都市では、豚獣人(ハム)のランドレースが使者に同行したデュロックからの通信を受け取った。

「ダンジョンコアは世界のコアからエネルギーを受け取っているから、移動は難しいんじゃないか。」

「世界のコアから切り離されたダンジョンなら、感情エネルギーだけで全て賄う必要がありますね。人間の場合、美食や酒などは感情エネルギーを倍に、覚醒剤は10倍に増やしますから、ダンジョン内で冒険者に覚醒剤を投与すれば理論上は効率的に感情エネルギーを収集できます。無茶苦茶ですが。」


「つまり、このダンジョンの5倍の効率か。」

「いえ、ダンジョンは感情を全部吸い取るわけでは無く、漏れた分を集めるだけですから、おそらく数十倍になるでしょう。」

「え~と、マリーさん、覚醒剤ってどう作るんだ。」

「覚醒剤の原料は日本に無い植物で、園芸店にも並びませんから、入手には薬草園ダンジョン、または麻黄(マオウ)(ファミリー)の修羅を召喚出来るダンジョンが必要でしょうね。」

「魔王か。また難しそうな。」

 麻黄である。危険性は似たようなものだが。

「ただ、紫蘇(ファミリー)でもサルビア・ディビノラムという幻覚作用がある植物がありますので、覚醒剤より大幅に効果は劣るとはいえ薬物によるエネルギー抽出は可能です。明らかにダンジョンの運営理念に反すると思われますが。」


「たしかにな。少なくとも健康では無い。」

 運営理念は、物心共に健康で豊かな生活を実現する。である。抽象的という悪い企業理念の代表みたいな物ではあるが、それでも薬物乱用が健康的では無いのは明白。

「あくまでも思考実験として、冒険者を1人ダンジョンに閉じ込め、麻薬を使って冒険者から感情を……これでは『搾り取る』ですね。そうするとして、どういうものがあり得るか……。」

「相当な力になるだろう。」

「それでも大きな物体を十分な速さで移動させるには、やはり力が足りないと思いますね。それに、あまり大きなダンジョンが移動すると自重で地面にめり込みますし、飛ぶのはさらに大変ですから、やはり大きさは制約されると思います。」

「飛行機だと滑走路も必要だな。」

大型トレーラー(ビッグリグ)はタイヤを入手出来ない問題がありますから、現実的には最初は電力不要の機関車と言うことになるのでしょうか。速度を妥協すればクローラ(無限軌道)式というのもあり得ますが。」

「あまり将来性が無さそうだな。飛行出来れば可能性が開けるが。さすがにラピュタは論外にしても。」

「推定340億tですからね。身終(みのおわり)の『飛島』ダンジョンは物理的には浮いていないという話もありますが、浮いていてもさすがにもっと軽量でしょうね。」

「浮いていないなら詐欺か。」


那須塩原(なすえんげん)ダンジョンの帆船もどきで使われている、生きた船首像の持衰(じさい)は、似たような仕組みかもしれません。元々ナスカ(茄子科)文化の宗教的中心はカワチ(河内)遺跡、つまり宇都宮の付近でしたから、発掘したら何か仕組みが分かるかもしれませんね。」

「直接那須塩原(なすえんげん)から機密を聞き出すわけには行かないな。でも、船はエネルギー効率が良いから、さほど大きな力は要らないだろうな。」

「このダンジョンのベトン級戦艦が300kWですが、那須塩原(なすえんげん)の船は、かなり大型で高速ですから、おそらく1.5~2MWくらいはあると思いますね。つまり、冒険者から無理矢理それくらいの力を引き出すことは十分可能なのかもしれません。」

「なるほど。よく分からない。」

「普通のトラックの消費電力が150kWあたり。陸軍の戦車が1MW程度。『新幹線』に自動車用の超伝導モーターを積むと2両で2MW前後。アメリカの機関車が1台3~4MWくらい。転送陣が40MWですから、機関車には足りないかな。というところでしょう。仮定に仮定を重ねているので不確かですが。」

「転送陣……酷いものだな。」

「単純にエネルギーだけ考えたら飛行機も多くなりますが、飛行機は炭化水素燃料なので養殖できればダンジョンのエネルギー負荷は少なくなります。異世界でも、リニアモーター式エレベーターは大規模だったり特殊な形状のビルで使う物で、普通の世界では、こんな無茶な使い方はしません。」

 異世界では藻を養殖し、抽出・精製し炭化水素燃料を製造している。当然巨大な化学工場が必要で現状の図書館都市ダンジョンには不可能。

「普通では無い異世界もあるのか。」

「無数にある異世界は多様ですからね。何が『普通』か。というのも、わたしの主観にすぎません。トルストイの小説にあるような『すべての幸せな世界は似ている。不幸な世界は、それぞれ異なる理由で不幸である。』というのは世界文明の本質の話で、歴史年表の出来事や国境や使われている技術などは大きく異なります。」

「不幸な世界もたくさんあるようだな。」

「本の内容でしか知ることは出来ませんが、それなりに上手く行っている世界よりずっと多くありますね。さらに、図書館が失われているため情報が入手出来ない世界もあると思われます。」

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