373:不味い飯
「……身終は飯が不味い!」
料理が全く口に合わない播磨屋久兵衛。この世界の身終では江戸時代同様に大根や青瓜の粕漬け、赤だし味噌、鶏、海老などが食べられている。
「私は修羅なので料理の味は分かりません。」
液肥を飲みながらスカーレットが言う。修羅達は持ってきた修羅用液肥、馬脚のカスミは干し草、ウサギ達は持ってきた金網で勝手にBBQパーティーを開催。
「そこの豚だけやな。料理を美味しく食べとるんは。」
播磨屋が視線を向けた先では、豚獣人のデュロックが豚のように大量に料理を食べている。
「そんで、『船頭多くして船山に登る』ちゅうように、協力すれば船が山に登るようなとんでもないことも可能や。出来ることを組み合わせたら、商都梅田も身終も図書館都市も得をする『三方よし』や。」
言うまでも無く、この世界においても、まったく間違っている使い方。
「お互い、何が出来て何が出来ないかを確認した方が良いでしょう。」
「何が出来る、出来ない、って言うても、そもそも図書館都市と海豚池が何が出来て何が出来ないか分からへんことには、何も始まらへん。そやけど、人が自分に何が出来ないか分からないように、ダンジョンの機能もダンジョンに居たら分からへん。」
「ダンジョンは全て特別であり、世の中『普通のダンジョン』はありません。」
「一般的なダンジョンいうたら、ただの自然の洞窟やからな。そうやないダンジョンは全部特別やろ。」
「自然洞窟はコアも影響圏も固有法則も無いので、いわゆる『ダンジョン』からは除くべきでしょう。多いのは、コアはあり周辺に一定の影響を及ぼすが、マスター等は居ないダンジョンです。例えば峠や峡谷に棲み着いて旅人から体力を少し奪ったり。」
「電車を通しやすい場所にはそういうダンジョンがよく居るから迷惑や。紀見峠やら山中渓やら。冒険者送り込んでコアを破壊するのも面倒やし。街道沿いでも暗峠なんかは迂回すればええんやけど。」
「迂回ですか。」
「大昔の話やけど、ダンジョンの機能で山をトンネルでぶち抜いたんや。残念ながら、なぜか123里より遠くではダンジョンの力は使えへんけど。」
「転送陣なら曲がるのは苦手ですから、直線で作りますが……。」
「平面型ダンジョンやあらへんのに転送陣を横方向に使うっちゅうのは斬新やな。普通は層群間エレベートルは塔型でも地下型でも層群間の移動に使うものや。そやけど、転送陣って電車より遅いし、そないに速いもんやないやろ。」
「空気抵抗はありますが、かなり高速化できます。実際、転送陣が消費する力の7割が空気抵抗で、浮上に必要なのは2割です。減圧できれば走行に使う力は減りますが、空気を抜くのには多大な力が必要で、現状では割高になります。」
高速転送陣は片側三車線の自動車道の片側に匹敵する巨大なトンネルを最高時速600kmという高速ですっ飛ばすというシロモノ。リニアモータ・エレベータである普通の転送陣とはだいぶ異なる。
「商都梅田ではそんなにエレベートルを使うとらへんから、力の問題までは考えとらへんかった。減圧って、長い真空管でも作るっちゅうことか。」
「似たようなものでしょう。それゆえに、手に負えない問題を引き起こしかねません。」