372:会談初日
【身終・山本】
「ようこそ、濃尾へ。国主の長田左馬頭だぎゃぁ。」
見た目は裸のオッサンだが、修羅なので服に隠れる部分は存在せず、R18にはならない。
「商都梅田、播磨屋久兵衛や。」
「図書館都市ダンジョン、サルビア・スプレンデンス・スカーレット・セージです。スカーレットと呼んで下さい。」
「いやぁ、まさか『図書館都市』の御使者と同時に付くとは思わへんかった。考えとることは一緒のようやな。」
「要は、変態と迷迭香の交易を盛んにするため、何とかしたい。ということだぎゃぁ。ただ、ここ山本の平穏は保ちたいので、交易は中山路に沿って大餓鬼・井口・蛇原・蓑鴨・蟹・朱鷺・大井を通れば良いぎゃぁ。ただ、可能なら井口や蓑鴨は重要な町なので迂回して欲しいぎゃぁ。」
重要な町を迂回する。というのは安全保障のため。
「利害は一致しています。山本経由より中山路の方が距離が短いので、それも問題無いでしょう。問題は輸送方法です。」
「ダンジョンを飛行させ移動させる方法は無いかや。たぶんそれが一番早いだぎゃぁ。」
「私は知りませんね。あとで図書館都市へ連絡して何か無いか調べてもらいます。」
「商都梅田は『鉄道』という優れた移動手段を持っとるけど、どないしても図書館都市との中間までは電気が届かへん。発電所は手に入らへんさかい、電気を産するダンジョンが必要や。そやけど、そんな都合の良いものはあらへん。」
「図書館都市でも発電所を作る構想はありますが、技術力が不足していますし、燃料もありません。」
「そりゃ、しゃぁない。図書館都市は電気はある言うても基本的に『ちょんまげ頭』の時代や。商都梅田は『ざんぎり頭』よりも、さらに進んどる。ちゅうことは、身終は、まさに『ざんぎり頭』ちゃうんかな。確か、『海豚池』ってそんなダンジョンがあるっちゅう話は聞いたことがあるんやけど、瓦斯灯ならともかく電気まであるかは知らへん。」
スカーレットが言っているのは、原子炉とその燃料のトリウムのこと。火力は燃料が無く、水力は見沼より標高の低い方向にしか使用できないし水の召喚量に制約される。
「海豚池って海獣の怪獣が居るダンジョンだぎゃぁ。六道の半端物で半道海豚って言うぎゃ、『ざんぎり頭』というのは知らなかったぎゃぁ。」
「『文明開化』っちゅうて、図書館都市より進んで、商都梅田より遅れた時代や。確か海豚池はその時代のはずや。」
「確かに電車はあるけど、走る方が速いぎゃぁ。」
「電車があるんやったら、電気はあるっちゅうことや。半分は解決したようなもんやな。」
「半分?」
「ちょい待ってくれへんか。」
播磨屋は地図を広げる。不正確だが、行基図よりはましな物。
「電気っちゅうのは、だいたい50里か60里までは届くんや。」
「50里と60里では、かなり違うと思いますが。」
「とにかく。不破関までは電気は間違い無く届いとる。そんなら、海豚池と図書館都市の端から円を書くとすると……残念、それでも隙間が残るか……。」
「つまり、電車は使い物にならない。ということです。とはいえ、移動ダンジョンで物を運ぶというのも、そもそもダンジョンの移動が可能なのか。」
「使えないっちゅうことはあらへん。電気の損失、電圧降下をどこまで許容できるか。やな。あんましギリギリやと電車が故障するやろうし。」
「でも、鉄道はすぐに時代後れになります。漢字で『鉄道』ってどう書くかご存じですよね。『お金を失う道』と書きます。これに対し、図書館都市ダンジョンから不破関まで250里の高速道路を作れば、途中で一部電気が届かない場所があっても問題ありません。」
「電気自動車で? そりゃ見物やな。」
「何なら、道路と鉄道と、両方作って競争しても良いでしょう。もっとも、電車は電気が届かない場所があるので、そこは荷物を牛車に積み替えるしか無いでしょうが。」
「多少の損失覚悟なら行けないことは無いとは思うんやけど、電気の仕様が対応しとるか。やな。」
「電気の仕様なんてあるかや。」
「電圧と周波数が合ってないと機械は故障するんや。確認して使わなあかん。」
商都梅田は154kV60Hzがダンジョンコアから層群に供給され、層群内で3300V60Hzに変圧され、電車はDC1500Vで動く。図書館都市は各層群に最初から6600V50Hz(あるいは60Hz)が供給される。海豚池はコアから3300V60Hzが供給され変電所でDC600Vなどに変換される。つまり商都梅田の変圧器を海豚池へ持ち込めば、154kVに昇圧して電気を供給出来るが、図書館都市は対応していない。
「移動可能ダンジョンに関しては保留し、商都梅田・海豚池・図書館都市から、道路と鉄道、それぞれに必要な電力を引く。で、よろしいでしょうか。電気代は別途計算するとして。あと、話を聞く限り、海豚池は規模が小さいので、大量に電気を使うなら、何らかのテコ入れが必要と思います。」
どうせ鉄道は上手く行かない。と、スカーレットは提案する。
「それは問題無いだぎゃぁ。ダンジョンは中で死刑をすれば良いぎゃぁ。」
「ダンジョン側と意思疎通がうまく出来へんと、要らへんことばかりするで。商都梅田は例外や。」
「海豚と交渉が必要かや。」
「直接挨拶に行った方がええやろな。40里あるさかい、馬で2日か3日必要や。」
「車では1日も必要ありませんし、あと4人までは乗せることはできます。ただ、馬は載せることができませんし、ここまで帰るにも遠すぎますから、現地で馬を手配できないなら、帰りは歩いて帰られるしか無いでしょう。ですから、決めることは全て決めてから向かえば良いでしょう。」
ピックアップトラックは最大5人乗り。銃を持ったウサギに挟まれて乗ることになるが。なお、山本へ戻るには電池に余裕が無い。
「線路さえ作れば、遅れたダンジョンなどに大きな顔はされへんのやけど。」