371:それぞれの出発
【不破関】
不破関は、身終の西端にして、商都梅田からの電車の終点である。駅の東、身終側には宿場町があり、東25里にある身終西部の主要都市、大餓鬼方面へ街道が延びている。大餓鬼から南東へ50里で国府の山本。
「山本までは75里。馬で5日や。そな、ちょっくら行ってくるで。」
商都梅田で馬に乗ることが出来る者は少なく、ある程度電気に関する知識も必要なため、使者の人選に選択肢は無い。
【西方面転送陣末端・読書村】
その2日後、図書館都市ダンジョン影響圏西端読書村。飯田の北西約25kmと方位・距離は異世界と似ているが、異世界と地形が大きく異なるため立地は異なる。ここに、8台のアメリカ製電動ピックアップトラックが集結。
「750kmの道を3日。中津までは涸れ川沿い、今後道路を作る場所を進み、荷物を積み替え、残りの600kmを最も状態の良い四台で進みます。残り四台は中津の北側、苗木に拠点を作り、この読書から補給しながら道路を作っていきます。」
マリーが使者のスカーレットと護衛のウサギ達に説明する。
スカーレットは外見は女性に見え、深い緑の金属光沢(構造色)の長めの黒髪、目は鮮やかな赤、服装は深紅のパンツスタイルのスーツ。
「サルビア・スプレンデンス・スカーレット・セージ、出発します。」
ピックアップトラック4台に使節団は16名。
使者は名前付きモンスターのスカーレット、無線担当は異世界アメリカ人っぽい豚獣人(直立二足歩行する豚)デュロック、医者は身終出身で土地勘のある柿修羅の蜂屋、何かあったら逃げ帰って急を知らせるために馬脚のカスミ、護衛のウサギが12名。人数的には1個分隊程度だが、小隊長の少尉と軍曹が指揮する。
異世界の大昔の子供向け科学雑誌などには、豚は読まないだろうが「ハムになろう」という広告が載っていたが、この世界では、まだ本格的な無線の運用は始まっていない。
【身終・山本】
「四苦八苦で、4×9と8×9を寄せたら108煩悩。250里には到底届かないぎゃぁ。」
「殿、四苦と四苦を寄せて八苦です。」
「六郎、250里を高速で移動する方法はありそうかや。」
身終領内は幅1,000km。長田左馬頭が移動手段を提供出来れば、商都梅田と図書館都市ダンジョンに対して優位に立てるが、出来ないなら、単なる通路に成り下がる危険性もある。
「ダンジョン以外では無理でしょう。龍が居れば龍に乗ることも可能でしょうが、龍はダンジョンから出ることが出来ません。ですが、濃尾をまるごとダンジョンにしてしまうのはお勧め出来ません。」
「なぜ、変態の電車はダンジョンから出ることが出来るのに、龍は駄目なのかや。」
「電車は単にカラクリであって、龍は特別な力で飛んでいるからダンジョンの外では落ちるそうです。」
自然界の物理法則に耐えられるか。と言う問題。なお、転送陣はリニアモーター式エレベーターなので物理法則には反しないが、ダンジョン影響圏外へ延ばすには今の図書館都市ダンジョンの工業力では手に負えない。
「龍はダンジョンの外では飛行出来ない。やっぱり龍と一体化した移動出来るダンジョンが解決策だぎゃぁ。」