369:技術的に遅れた可哀想なダンジョン
【商都梅田・第一層群・箕有百貨店8階】
「そんで『図書館都市』はダンジョン内の交通に転送陣使うとるんやったな。商都梅田やと転送陣は層群間の移動だけやけど。」
「鉄道が無く、転送陣と電気自動車を併用している。」
「電気自動車……そないな時代後れな物。確かに石炭は希少で石油があらへんさかい、鉄道が無いならしゃあない。にしても。」
電気自動車は過去の遺物であり、ガソリン車の実用化によりほぼ駆逐された。というのが1920年代末の常識。ちなみに、年代的には日本でアメ車の組み立てが始まった頃だが、商都梅田には石油が無いため自動車は使用できない。なお、マリーが良く知っている異世界では太平洋戦争が無かったため、21世紀後半に至るまで、そのままアメリカ車が主流となっている。
「技術的には商都梅田より20年か30年遅れた程度と思われる。ですが、彼らは駅では無く図書館の備品しか複製召喚出来ない。」
「電車とか線路やのうて、本とか本棚っちゅうわけやな。そりゃ可哀想なことや。」
「商都梅田同様にコアから電力が供給されており、電灯はあるものの、路面電車すらない。」
「まぁ路面電車かて、ある程度は進んだ技術やさかい、無いのはしゃあない。一応身終の『海豚池』ダンジョンには『存在』はしているようやけど、それもダンジョンから出られへんのやったら無意味やな。」
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「商都梅田の技術水準、というのも資料が乏しいので断定は困難ですが、彼らが使っている電車は150年ほど昔、より正確には1930年頃の物ですね。大正末から昭和始めくらい。当時は既に航空会社は存在しましたが、どうやら鉄道関係以外は召喚出来ない模様です。」
大大阪は概ね1925年の市域拡張から1930年の昭和恐慌。遅くとも1932年の東京市域拡張・1934年の室戸台風あたりまでを指す。
「150年か。100年前の『新幹線』どころでは無く古いな。」
「モーター等も当時の物のようですね。つまり技術的には相当遅れている。ということです。」
「しかも、それ以上の改良は出来ていない。ということだな。」
「商都梅田の歴史について詳しい資料は手元にありませんが、少なくとも数十年は進歩せず停滞している模様です。地下の層群までは分かりませんが。」
「このダンジョンは、まだ3周年も迎えていないのに。」
「マスター、比較対象が悪すぎます。……どこかで1年くらい計算間違えていそうな気がしますが、わたしは4歳で良かったはずですよね。」
「また、第三層群屋上の40mアンテナで3.5MHz帯の電波を拾っていない。ということは、少なくとも商都梅田は短波無線は行っていないと思われます。年代的にラジオはともかく無線通信は黎明期で、電車に無線は無いのでしょう。」
短波は電離層の150km以上の高さで反射するため、高さ142kmの図書館都市ダンジョン頂上でも使用可能。ラジオは中波なので届かない。
【身終・山本】
「それで、六郎よ、変態と迷迭香は、どちらが国力があるかや。」
身終国主、長田左馬頭(自称)は、側近の胡瓜修羅、桐生六郎に聞く。
「それは商都梅田でしょう。これまでの蓄積がありますし、商都梅田には鉄道がありますが、迷迭香は基本的に紙しか産しません。水が大量にあるので散々池を作っていますがそれだけです。でも、迷迭香には勢いがあり、大きさも広くなっています。」
「最悪は、この濃尾が戦場にされることだぎゃぁ。」
「殿、両者に対し何か切り札があれば、主導権を握ることが出来ますが……。」
「浮いている飛島を移動させて、敵の頭に落とす……濃尾を丸ごとダンジョンにしないと無理だぎゃぁ。」
「ダンジョンを移動させることが出来れば良いのですが。」
「そんなことが可能かや。」
「分かりません。」




