365:対決?・猫啼温泉
【猫啼温泉】
「図書頭閣下、ダンジョンコアは鉱泉の裏、地中に埋めてあると思われます。」
ウサギからの通信が入る。
「コアは鉄ニッケル合金なので、金属が少ない場所なら金属探知機で容易に発見できますね。これが洞窟型ダンジョンだと洞窟探検が必要になりますが。」
「確認のため掘り起こしますが、誤って我々がマスター登録されないよう、取り出しは保留します。」
「いえ、掘り起こしは不要です。触れなければ大丈夫とは限りませんからね。無駄にダンジョンにエネルギーを与えないよう一端退避。決死隊を選抜したらダンジョンコアを取り出します。」
「閣下、了解です。」
ウサギ達が撤退しようとしたとき、ダンジョンコアが埋まっている場所から霧が立ち上り、1匹の猫の姿になる。一斉に銃を向けるウサギ達。
「にゃ、我輩は悪く無いニャ。だ、駄右衛門が勝手に住み着いただけニャ。むしろ我輩は一度斬られた被害者ニャ。」
「閣下、このように申し開きしておりますが。」
「わ、我輩を殺したら七代祟るニャ。だから見逃して欲しいニャ。マタタビをくれるなら1刻は言うこと聞くニャ。」
「この世界、従属魔術とか便利な物はありませんからね。『契約』というのは破約に対する制裁がなければ無意味です。『猫は三年の恩を三日で忘れる』と言いますし、命が9つあるなら首を9回刎ねてダンジョンを接収した方が良いかも知れません。」
そう言うとマリーは通信機の画面越しに捨猫和泉をじっと見る。
「わ、わかったニャ。降伏ニャ。」
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「いまひとつ信用できませんね。影響圏をもっと広げて直接圧力を掛けた方が良いでしょうか。」
「現在、半径1,231kmだったな。影響圏の限界というのはシステム的な物だから、自然法則での限界はどうなんだろうか。」
「単に2進数の1バイトで表記される最大が255で255リーグ。ですからね。リーグやマイルというのも自然法則に基づく長さではありませんし、システムによる管理。ということを諦めたら何か方法はあるかもしれませんね。」
「人為的単位に依らない長さか。」
「例えば、世界に対しダンジョン影響圏の最大が1ステラジアンなら、円錐角は65.54度、直径は世界一周41,400kmの18.2%なので、半径3770km。その場合、塔の高さは1,000kmくらい必要になってしまいますが。」
「さすがに無茶だな。」
「ただ、わたしの感覚として影響圏を広げるのにだんだん強い力が必要になっている気がしますから、今の3倍も広げられそうな感じではありません。せいぜい0.2か0.3ステラジアン程度で『無限のダンジョンエネルギー』が必要になりそうな気がします。根拠はありませんが。」
「でも、システムでは管理出来ない。」
「広げたところで完全な手動管理となりますから、完全な活用は出来ないでしょうね。転送陣すら設置できない全くの不良資産と化す可能性もあります。それに、塔の高さの方はシステムの理論的制約上、地上127リーグ・深さ128リーグが限界で、さすがに高さの方はそれを越えるとオーバーフローによる崩壊とか起きそうです。それに、現状のシステムでの上限は100リーグ、480km程度ですが、それすら到底図書館が足りそうにありません。いろいろかき集めて、やっと142kmですからね。」
「確か、子供のヨハネと大人のヨハネだったか。」
「同じ図書館の歴代の建物を重複召喚していますから、初代・二代目・三代目。って感じですね。例えば10、11、12、13層群と613、614、615、616層群は同じ県立図書館の新館と旧館です。」
洗礼者ヨハネの頭蓋骨は少なくとも4つある。もっとも、仏舎利の総量はトン単位となり、仏教徒のマリー達は何も言う資格は無かったりする。
「とりあえず、今の高さでシステムを使わず影響圏を広げてみて、転送陣すら設置できないなら無意味だからやめにしたら良い。それに、探せば鎖国が無くオーストラリアが日本領の異世界もあるかもしれないから、もし、それなら図書館も増やすことが出来る。」
「日本は大陸国家では無いので秀吉が生きていても大陸領は維持出来ませんし、海洋国家でも無いので鎖国が無くても遠隔の植民地を持つのは不可能です。実際、民族どころか常識まで異なる朝鮮半島を抱え込んだ異世界では、ことごとくろくでもない事態が起きて撤収を余儀なくされていますし、このダンジョンでも、かつて一部の異世界にあった『朝鮮総督府図書館』や『京城府立図書館』などは複製召喚出来ません。」
異世界日本は島に位置する陸軍国であり、大陸国家とも海洋国家とも異なる。