363:公開処刑
【第34層群・中庭】
地上に位置する第34層群には、評判の海賊の処刑を一目見ようと何万もの住民が押しかけてきた。この世界、公開処刑は単なる娯楽である。
「みなさん、これより、海賊、日本駄右衛門と鼠小僧を処刑します。これで奥州との交易もより安全になるでしょう。それでは鼠小僧さん、最期に何か言うことはありますか。」
マリーは鼠小僧に辞世の句を要求する。服装はパンツスタイルの地味なスーツ。この世界の正装は動きにくいしダンジョンの機能では調達できない。そして、この世界は衣類が高コストなため買うと高く付く。
「天が下 古き例は しら浪の 身にぞ鼠と 現れにけり。」
(昔の海賊達みたいに、鼠も世の中に知られてしまったチュウ……。)
図書館都市ダンジョンには死刑執行人は居ないため、岸播磨介や仙波左馬允といった直臣のサムライ達が鼠をギロチンに固定し、マリーがギロチンを操作し鼠小僧の首を刎ねる。マリーは生首を観客達に見せてから、自分の体重より重いくらいの刃を滑車で引っ張り上げる。岸団や村山党は陪臣なのでマリーが直接命令を下すことは出来ない。なお、この場には居ないウサギ達は指揮系統にかかわらず全員直接雇用。つまり封建家臣団と近代的職業軍人の違い。
「続いて日本駄右衛門さん、言い残すことはありませんか。」
「押し取りの 人の思いは 重なりて 身に青網の 名こそ残れる。」
(これまで好き放題に海賊をやってきたが、被害者達の思いが重なり、とうとう縛られて首を斬られることになってしまったか。)
続いて日本駄右衛門もギロチンで首を刎ねられる。古代中国では斧で敵や罪人の首を刎ねることは王の権限であり「王」という漢字自体が処刑用の斧に由来するが、図書館都市ダンジョンでも処刑はマリーのみが行う。
その後、日本駄右衛門と鼠小僧の首は3日間晒されるが、そこはこの世界の獄門と同じ。
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「疲れました。ほんと。」
世界樹の根元で上着を脱ぎだらしなく寝転がっているマリー。なにしろ筋力は並以下。なお、持久力はあるので長時間歩き回るのは平気。
「ギロチンも大変ですが、問題は切腹なんですよね。今後もし切腹が必要になった場合、わたしが介錯(御手討ち)した方が良いのですが、剣術の心得が無いのか、なかなか刀の扱いが上手くなりません。乗馬も騎乗しているのでは無く乗せて貰っている状態です。」
介錯には相当の腕前が必要となるため、異世界の江戸時代でも、藩主等が自ら御手討ちにすることは少なかった。
「サムライをギロチンにかける訳には行かないからな。」
「異世界では王侯貴族の処刑にも使われますが、この地域では、とんでもない不名誉ですからね。悪政を敷いて一揆を起こした。なんて場合は切腹を許さず斬首ですからギロチンで良いのですが。ただ、ダンジョン影響圏内の場合、そうなる前に分かるはずで、確認を怠ったわたしの罪になってしまいますね。」
「名前付きモンスターは死んでも復活するから、切腹なんてダンジョンエネルギーの壮大な無駄遣いだ。」
特にマリーの場合、ゲームのような数値化は出来ないとはいえ、無駄にカタログスペックは高い上に後付け設定の経歴も豪華なので、ダンジョンエネルギーが大量に必要になる。
「わたしも痛いのはいやです。それに、せっかく決まった寿命は無いのですから、この図書館の本を全部、なんてことは言いませんが、興味がある1%か2%だけでも読んでおきたいものです。」
仮に1日10冊読んだところで千年単位の時間が必要だが、人間牧場の寿命は300年が限界。
【穴地獄】
なお、無口な石川は辞世の句を残すことも無く、10日もあれば釘が「消える」という群馬鉄山の酸の熱水で何日もじっくり煮込まれて溶かされ、ダンジョンエネルギーに転換された。
辞世の句は元ネタに関する伝説ですが、おそらく江戸時代の創作と思われます。




