358:使者といえども処刑するのが流儀
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「マスター、影響圏の端、塚原の町に、日本駄右衛門が餓鬼の使者を送ってきました。なんでも、毎年歳幣、つまりお小遣いをくれるなら商人を襲わない。と言っていますが、餓鬼にはお仕置きが必要です。使者の首を刎ねてドローンで猫啼温泉……は遠いので左遷城の北城に首を捨ててやりましょう。」
「マリーさん、左遷城では日本駄右衛門に伝わるまで時間が必要だから、遠くても直接猫啼温泉まで……って使者を処刑して良いのか。」
「この世界に戦時国際法は適用されません。国際連盟の制裁など世界を越えては不可能ですし、列強諸国も介入できません。それに、わたしは『捕虜を取らない』方針で、海賊と交渉の余地はありませんし、降伏も認めません。ましてや『お小遣いが欲しい』なんて妄言、聞く価値もありません。」
「確かに、『鳴かぬなら 埋めてしまおう ほととぎす』とか『逆らえば 女子供も 皆殺し』とか、このダンジョンは虐殺好きで知られているから、『またか』と思われるだけだろうが。」
「あくまでも結果論ですね。いくら修羅道が争いの世界と言っても、殺生を好むという訳ではありません。もっとも、人間はいくらでも殖えますし、畜生は34億種類もいますし、餓鬼なんて石で、半分ゴーレムみたいなものですから、敵に容赦をしない。というのは場合によっては必要な事でしょう。」
34億種類というのは熱帯林の昆虫などを含んだ数で、ダンジョンのエネルギー源になる知的生命体はそんなに種類が多くは無い。
「マリーさん、この世界にゴーレムなんて居るのか。ユダヤ教のラビは見たこと無いが。」
「陰陽師が居るのは間違いありませんし、おそらく式神もゴーレムと似たようなもので科学的にはロボット、この世界で言うところのからくり人形でしょう。陰陽師はヘブライ語を知らないでしょうから、額には平仮名で『しんり』、つまり悟りと書いてあると思われますが。もちろん、ダンジョンの外では魔術は手品くらいしか機能しませんから、餓鬼が式神のようなロボットで無い以上、広義の生物には含まれます。」
英語のtruthの一部を消してもdeathにならないため、英語ではゴーレムは動かない。らしい。
「畜生という単語は、ただの動物も畜生道の人も含むけど、普通は、ただの植物を修羅、鉱物を餓鬼とは言わないが。」
「畜生道は特殊ですからね。人間も生物学的には動物なので、中間段階がいろいろ居て、線引きは感情エネルギーが得られるかどうか。となります。ですが、エネルギーは単純に数値化されませんから、図書館都市ダンジョンみたいな大型のダンジョンでは測定誤差の問題もあり、特定の畜生が、ただの動物なのか獣人なのか判定することは困難です。」
動植物の感情はダンジョンのエネルギーにならない。獣人や修羅からはエネルギーが得られる。という違い。もちろん自然に放出されるものを回収しているため、通常のダンジョンでは体力を吸われて「疲れる」なんてことはない。(体力を吸うダンジョンはある)
「ともかく、海賊と確認出来れば使者は斬首。現地で殺すのがいやなら、この塔の下まで護送してくれば、わたしがギロチンで首を刎ねます。また、返事は今から用意しますから、それを印刷して首と一緒にドローンで猫啼温泉の前に捨てます。」
「マリーさん、ギロチンは動作するだろうか。」
「殺人犯の公開処刑に使う前に、海賊で実験すべきでしょうね。犯罪者と言えども住民ですから、無駄に苦しめるのは良くありません。」
※以下、R18Gとなるため省略
「餓鬼の首は硬いので、ギロチンだけでは切断できませんね。餓鬼は絞首刑にして仮死状態にしてから砕いた方が良いかもしれません。赤穂浪士はキジハタという魚を西の方でアコウと呼びますから、この世界ではおそらく魚人でしょうが、粟か出湯の南の方なら修羅のアコウが居るかもしれません。」
餓鬼は普通に首を絞めただけでは仮死状態になって死なない。
「アコウ?」
「イチジクの仲間で、樹木を絞め殺す『森の殺し屋』として知られています。多くは菩提樹のように熱帯産で日本には産しませんが、アコウは温帯でも暖かければ越冬できます。」
「菩提樹って、あの菩提樹?」
「はい。お釈迦様が悟りを開いたのは、絞め殺しの木の下です。わたしは、このこと自体に深い意味が有ると思います。また、お釈迦様が入滅した娑羅樹はラワン材の一種で、実際、異世界には菩提樹の数珠や娑羅樹の仏壇があります。このダンジョンでは仏壇はチーク材ですが、これはチークがシソ科だから。という理由です。」
木製本棚を召喚すると元の材質にかかわらずチーク材になる。実際には召喚出来ないが、もし菜種油やオリーブ油を召喚したらエゴマ油、胡椒やシナモンを召喚したらシソ科ハーブの何かになるだろう。




