355:被害ゼロの完勝(日本駄右衛門)
【猫啼温泉】
「うはははは、天王寺摂津大夫め、何百両も溜め込んでいやがった。」
喜ぶ日本駄右衛門。
「松永隠岐守は、小判をほとんど御金蔵に入れているようで、あまり盗めなかったチュゥ。」
図書館都市ダンジョンから物を買いすぎて金欠なだけ。
「さぁ、酒と博打だチュゥ。」
鼠小僧は義賊でも何でも無く、単に浪費家なだけ。鼠が好む清酒は甘口。ビールでもドライ系は嫌いで麦芽100%を好むが、残念ながらこの世界にビールは無い。図書館都市ダンジョンではマスターと眷属用にビール、それも麦芽100%ビールを入手できるが、流通量は少なく、こんな場所までは廻って来ない。
「好きだな。」
その後、日本駄右衛門達は、左遷城付近に出没しては、鼠小僧が武家屋敷で泥棒を働き、日本駄右衛門と餓鬼の石川が隊商や商家を襲い、ウサギが出動すれば逃げ、散々に荒らし回る。
一方、猫啼温泉は左遷城からでも15里、図書館都市ダンジョン影響圏からは20里と、かなりの距離があるため、討伐するには距離が遠い。
【猫啼温泉】
「我輩の言ったとおりニャ。これで勝負あったニャ。」
捨猫は偉そうに言う。
「まさか勝てるとはおもわなかった……。」
日本駄右衛門は奪って積み上げた米俵を背に、喜びをかみしめながら言う。しかも犠牲はゼロ。図書館都市ダンジョンのウサギなどとは一切戦っていないためでもあるが。
「正面からやり合っても勝てないニャ。なら、敵が居ない場所だけで戦えば良いニャ。」
「籠城では勝てない、なら打って出るしか無いが、かといって正面から当たって勝てる相手ではない。だから常に敵が居ない場所で戦う。か。」
「いくら相手が600万石でも、全ての商人や豪農を守ることは不可能ニャ。それで、次にどうするか。を決めるニャ。」
「このまま徹底的に襲い続けたら、相手も根負けして引き下がるだろうか。」
「それは無理ニャ。迷迭香の塔は奥州、多賀城方面から那須塩原を通らずに修羅の移民を集めるのが目的ニャ。冬になる前に移民を受け入れるため、そろそろ直接派兵してくるに違いないニャ。」
「修羅の移民? なんでまた修羅なんだ。あんな自己中で性格悪い連中を集めてどうするんだ。」
「駄右衛門に言われるとは修羅も大概ニャ。迷迭香自体が修羅だからに決まっているニャ。」
「人数が多い人間に主導権を握られたくないためか。そして、畜生はどうせ団結できないから考えなくて良いという訳か。」
多民族国家、例えば異世界のポーランドは面積40万k㎡・人口6,000万のうち1,000万がユダヤ人、500万が山オランダ人(「ドイツ」は存在しない)であり民族間の緊張が絶えない。異世界日本が北海道より狭い台湾を5県3庁に分割しているのも、人口の1割以上を占める本島人(漢族)を団結させないため。という陰謀論もある。これは、単に明治期に北海道が人口希薄すぎて県の設置に失敗しただけで、面積が同程度の九州も7県がある。
「それで、次は歳幣を要求するニャ。毎年小判1万両、米1万石をくれるなら隊商を襲わないって提案するニャ。」
「襲わないって、海賊だぞ、誰も襲わないなら何をするんだよ。」
「夏は畳で、冬はコタツでご~ろごろすれば良いニャ!」
ダメだこいつ。と思う日本駄右衛門。とはいえ、捨猫が言うように直接派兵してくるなら対応を考えないといけない。