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354:ねづみさんしよう

【第三層群屋上展望台・世界樹】


「マスター、左遷城の西城に泥棒が入ったと報告がありました。『ねづみさんしよう』と下手な字で書かれた木札があったとのことです。根積蚕紙用? 何をしたいのでしょうか。」

 蚕紙(さんし)とは、蚕の卵が産み付けられた紙で、温度・湿度を調整し孵化させる。桑の栽培が難しい砂漠では生糸は高級品で、むしろダンジョン産の方が多い。

「『ねずみ』では。鼠さん、しよう。かな。何をするかは不明だが、ろくなことでは無いだろう。」

「ネズミなら、異世界の『チュー取りアル』という中国(民国)製の誘引剤入り粘着式ネズミ取りがよく効きます。もちろん中国人は通常『アル』なんて言いませんが、販売戦略でしょうね。この世界でも、久良(くらき)郡の唐人町では、お客さん相手には、わざと語尾にアルと付けるようです。ですが、今回は泥棒ですから、鼠獣人とは限りませんね。むしろ人間の可能性が高いでしょう。」

 豚獣人がわざと語尾に「ブヒ」と付けるようなもの。一方、新座城や高麗城で語尾に「隅田」と付けるのは単に丁寧な言い方。

「異世界の鼠小僧次郎吉も人間だな。」

「異世界の畜生は基本的に知的生命体ではありませんから。そもそも『人間以外の動物』といった程度の意味です。もちろん異世界の畜生にも泥棒はいますが、善悪の基準が人間と違いますし、法律も適用出来ません。」

 歴史上は、動物を裁判にかけた事例は多数ある。

「つまり、鼠は鼠でも頭の黒い鼠か。」

「冤罪かも知れませんが、頭の黒い鼠は日本駄右衛門の関係者という口実で討伐するのも手ですね。この世界、弁護士はいませんし公平な裁判も必須ではありませんから。もちろん、ダンジョン内で住民が関係する裁判なら、ダンジョンの記録に基づく裁判を行いますが、日本駄右衛門はどこの領民でもありませんから、問答無用で市中引き回しの上、獄門にしても問題ありません。」

 ただし、図書館都市ダンジョンでは斬首ではなく、分冊百科「ゲーテ全集」の付録を拡大複製したギロチンを使用する。……予定。実際に使用したことは無い。


「しかし、左遷城もきちんと堀があって見張りも居る城なのに、どうやって賊が入ったんだろう。」

「この世界の技術水準では、忍びを完全に防ぐのは難しいでしょうね。堀だって熟練した忍者なら水蜘蛛(みずぐも)という携帯型の浮き輪で渡ってしまいます。」

 水蜘蛛は、泥沼の堀では足に敷いて泥の上を歩き、深い堀では革の袋を膨らませて浮き輪にする。水の上を歩くことは出来ない。

「監視カメラを取り付けようにも、電線切られたらおしまいだからな。」

「電気は蓄電池で何とかなるでしょうが、監視して警報出して確認する。という、ちゃんとした警戒システムを作るのは難しいでしょうね。商都梅田や石の神殿アスカなら、一部の機能はダンジョン影響圏外でも使用可能ですが、このダンジョンにそんなものはありません。」

「このダンジョンの本質は『監視カメラ』では無いから、無理だと思う。それに商都梅田などだって距離無制限では無いだろ。」

「おそらく500km程度、つまり100リーグでしょうね。偵察機が無く正確な測量は出来ないので推測ですが。」

「転送陣で写真機を打ち上げて衛星軌道に乗せる。とか出来ないのか。」

「軌道に乗るには秒速8km必要ですが、転送陣は衝撃波の問題があるため音速は超えられません。そして、小笠原ペトゥレル(ウミツバメ)みたいな宇宙機どころか100年前の原始的衛星打上げ火箭(ロケット)すら、今の工業力では手に余ります。」


「結局、何をするにも工業力の制約だな。」

「ダンジョン影響圏から一歩出たら、そこは完全に物理法則が支配する世界ですからね。ドラゴンとか巨大蟻とかが攻めてくる心配をする必要は無いのは良いことですが。」

「ドラゴンは大きすぎるから、どうしようも無いな。」

「飛行出来ないどころか自重で潰れますからね。人に化けるにしても影響圏外では質量保存の法則を回避できません。防衛用なら決戦兵器でしょうが。」


「それで、泥棒だが、盗まれた小判を追跡とか出来るのか。」

「無理ですね。小判に発信器を仕込む訳にも行きません。ただ、小判はサド金山で製作される手工芸品ですから、全て微妙に異なります。一度このダンジョンで使用された小判ならダンジョンコアに登録済みですから、再度使用されれば確認可能ですが、なにぶんダンジョン外ですからね。盗まれたのか、正当な商取引で使われたのか、経緯の判定は不可能です。」

「証拠が無いか。」

「海賊は海賊と言うことだけで十分な証拠ですから。」

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