353:援軍たち(日本駄右衛門)
【猫啼温泉】
「野郎ども! 良い知らせだ。頼もしい援軍が来た。」
日本駄右衛門は集まった配下達に呼びかける。手下の人間・畜生は野郎ばかりで餓鬼には性別は無い。なお修羅は居ない。
「鼠小僧だ。まっするず!」
身長4尺3寸程度と小柄だがムキムキ、ふんどし一丁の鼠獣人、二足歩行する大鼠が挨拶する。
「なんだその、まっするず。というのは?」
「我も知らない。昔から代々そうだった。」
ハツカネズミの学名が「ムス・ムスクルス」で、これを英語で誤読して「マッスルズ」。しかし、修羅ならともかく、この世界では畜生の学名など知られていないし、英語を使う種族も少ない。
「鼠小僧どのは、単独での侵入を得意とする。」
「用心棒が居る商家の金蔵などは勘弁な。それと、千両箱より重い物は持ったことは無い。」
「商家破りは、この日本駄右衛門様の仕事だな。」
小判は18gなので千両箱は重さ22kg(異世界の鼠小僧次郎吉の時代は小判が13gなので17kg)あり、別に「箸より重い物を持たない」なんて訳では無い。
「石川。」
無表情な餓鬼が感情無く言う。
「石川と言えば、伝説の大盗賊・石川五右衛門、石川と言えば盗賊だ。この辺りも『石川郡』だから、盗賊にふさわしい地だ。『石川や、浜の真砂は尽くるとも、世に盗人の種は尽くまじ』と言い……。」
「長いぞ!」
日本駄右衛門の説明に野次が飛ぶ。
「釜茹ででは死なぬ。」
「お~」と、どよめく手下ども。とはいえ、餓鬼は大抵は平気なのであるが。
「六十六箇国から、名のある海賊達が次々集結している。残念ながら、鬼神のお松と自来也は探したが未だ見つからぬ。単に見つからぬだけか、あるいは存在しないのか……。とにかく、盗賊らしく盗みを重ねて被害を与え、迷迭香の塔に奥州から手を引かせる。」
「おー!」
「敵の武士団や兎兵と直接戦ってはならない。また、敵の領地に足を踏み入れてはならない。あくまでも敵の隊商、敵と取引する商人を狙うが、護衛が居る場合は避ける。」
「商人は冒険者など雇っているし警戒しているから、まず、左遷城西城の松永隠岐守、それもご金蔵では無く奥向を狙うと良いチュゥ。その夜の間に、立て続けに南城の天王寺摂津大夫、東城の高井六位蔵人を襲う。でも、東城はろくに小判は無さそうチュゥ。」
鼠小僧が言う。
この世界の畜生は、頭だけ動物の牛頭馬頭・美濃牛や下半身と耳が動物の馬脚などの半獣人から、ウサギや鼠小僧のような二足歩行し人語を操る「物言う動物」まで様々な者が居る。なお動物界でも「物言わぬ動物」は、ただの動物であり、感情はあってもダンジョンエネルギーは得られない。
一方、植物界で光合成を行う栄養体の他に人間のような姿(人間体)を持つのが修羅。持たないのがただの植物。鉱物界で知能を持つのが餓鬼、持たないのがただの岩石。