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349:常磐炭田を探そうか

【第三層群1階】


「と、いうわけで、越前屋さん、石灰石は死んだダンジョンなので、掘り尽くしたら次を探さないといけませんが、鉄は無事に安定的な入手が可能になりました。」

「同志図書頭(ずしょのかみ)様、それは何より。それで、この付近で石炭はありそうですかな。」

「結論から言うと可能性はあります。まず、鉱山系、というか鉱産物を産するダンジョンは、概ね異世界で鉱山がある位置に対応しています。ただし、ダンジョンの場合、必ずしも鉱石があるのではなく、サド金山みたいに他の方法で鉱産物を産する場合も多いようです。例えば、秩父の『和銅谷』では、モンスター、怪物ですが、それを倒すと死体は消え銅銭が残ります。残念ながら一文銭では無いので鋳直す必要がありますが。」

 苦労して怪物を倒して、一文の価値も無い(一文銭より軽い)和同開珎では意味が無い。ダンジョンの産物では骨董屋へ持っていっても値は付かない。

「異世界の炭鉱がある場所に対応した位置を探す。というわけか。」

「はい。石炭も異世界の炭鉱に対応した場所にあると思われます。異世界では石炭と言えば北海道と九州ですが、北海道はおそらく千里の彼方、九州は位置が異なるようですが、それでも500里も向こうで、わたしには到底手が届きません。」


 マリーはそう言うと、図書館から持っていた異世界の関東地方の地図を広げる。

「異世界の関東地方では、高崎炭田や入間の山側などに亜炭がありますが、亜炭は不純物が多く燃料としては質が劣るので、わざわざ探す価値は無いでしょう。土壌改良や飼料には使用できますが、それでは、このダンジョン以外では越前屋さんとは別の商人さんの取り扱い品目になってしまいます。」

炭薪問屋(燃料商)が金肥を扱ったら、干鰯問屋(ほしかどいや)油問屋(あぶらどんや)が許さないな。」

 越前屋は図書館都市ダンジョンから新聞紙や燃やすための本を仕入れて各地の炭薪仲買(燃料小売店)に売るのが仕事。ダンジョン影響圏内は電気が使用可能だが、近隣の町や村はそうはいかない。砂漠では煮炊きの燃料は貴重。

「このダンジョン内ならば、定款に『付帯関連する一切の事業』って書いておけば、事実上何だってできますけどね。」

「このダンジョン内は『電気』とやらがあるため燃料の需要は少ないし、外で売れないのは困る。」


「常磐炭田も石炭としては硫黄が多く質も劣りますが、わたしの手が届きうる範囲では一番期待できると思います。」

「なら、早速石炭探しですな。」

「いえ、群馬鉄山はダンジョン影響圏からも近く、砂漠の中にコケが生えているので、容易に発見可能でした。対して炭田は地上から見てはっきりとは存在が分かりませんから、探すのは容易ではないでしょう。」

「地道に探すしか無いか。」

「さらに、鉱山は基本的に餓鬼の領域ですから、わたしとは相性が悪くなります。石炭は植物から出来ますから、あるいは修羅の炭鉱もあるかもしれませんが、あまり期待は出来ないかも知れません。」

「それは仕方ない。このダンジョンのおかげで商人も巡礼も旅人はみんな助かっているから、炭鉱の発見が遅れるくらいは。なにしろ、これまで旅には日数が必要で、しかも往々にして峠道などにはダンジョンが住み着いていて、時には旅人が遭難し、妙に疲れたり目を離した隙に荷物が消えたりしていた。死者まで出ることはまず無いし、わざわざ討伐するまでの被害でも無いと放任されてきたが。」

「峠道ですか。確かに山道の本質は『疲れる』ですから、体力を直接吸い取る『固有法則』を持っていても不思議はありませんね。」

 図書館都市ダンジョンを含め、通常のダンジョンは知的生命体が自然に放出する感情をエネルギーとして回収しているだけだが、峠道などの悪路は疲れるもの。このため、直接人からエネルギーを吸い出す「固有法則」を持つ場合がある。もっとも、そんなダンジョンは希で、大抵の場合、単に「疲れた」という感情を吸っているだけで、行き倒れるのもダンジョンのせいではない。


「無意識だから(たち)が悪いですね。知性が無いダンジョンでは交渉の余地もありませんし。」

「ただ、()(こし)の間にある『魔の山』は最近100年で800人も食べて、さすがに討伐すべきと言う話になったが、失敗に終わっている。転送陣のおかげで通らなくて良くなったが。あのダンジョン、誰も通らなければ崩壊してくれるだろうか。」

「幅50里程度なので、丹沢ヒルズの直径75里で必要な生贄が年10人から推測すると年3人。あと100年くらい保つかもしれませんが、知性が無いダンジョンならエネルギーを無駄にしている可能性が高いですから、そこまで長生きはしないと思います。ただ、万が一、知性のあるダンジョンマスターが居た場合、何か仕掛けてくる危険性はあります。」

「それは迷惑だな。図書頭(ずしょのかみ)様に言うべき事では無いかもしれないが、ダンジョンと言う物は必然的に生贄を必要とするから、往々にしてろくでもない問題を引き起こす。」

「人間牧場以外のダンジョンは、どうしても不慮の事故が必要になってきますからね。炭鉱ダンジョンも、知性が無い場合、人間牧場を作って飼い慣らしたつもりでも鉱山事故を起こしたりしかねません。直径数里より小さければそうそう生贄も必要ありませんが、石炭を掘り出す場合、どうしても大量にダンジョンエネルギーが消費されますからね。」

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