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347:群馬鉄山ダンジョン(解説編)

【毛の国・穴地獄】


 翌日、仮死状態の餓鬼が穴地獄へ運び込まれ、砕かれた上で酸の泉に放り込まれていく。餓鬼が埋まっていたのなら那須塩原(なすえんげん)にも売りつけてやれば良かったかな。と思うマリー。

「今日は実際にダンジョンの拡張を進めます。まず、今の穴地獄がそのまま第一層群となります。『層群』の意味は分かりますね。」

「はい。共通性のある地層の集まり。です。」

「クニさん、それは地質学で、ダンジョンではダンジョンの構成単位。です。平屋だったり複数階あったりしますが、ダンジョンは『層群』単位で組み替えが可能です。」

 いずれにせよ英語ではグループ。

「すみません。」

「いえ、悪いのはクニさんではなく用語を紛らわしく定義した者です。それで、第一層群の地下に侵入者を阻止するための層群を置き、さらにその地下深くでコアを保管しますが、それは後日クニさん自身に作って貰います。このダンジョンの特性と、クニさんの強みを生かして考えてみて下さい。失敗しても今は騎士団が居るので大丈夫です。」

「はい……。大丈夫でしょうか。」

「誰だって失敗はします。致命傷にならなければ問題ありません。それで、ここからは、見本として、わたしのための層群を作りますから、よく見ていて下さいね。まず、昨日説明したようにダンジョンシステムで遠隔操作を設定します。遠隔操作と言ってもダンジョンエネルギーを使い潰したりダンジョンを破壊したりはできませんから安心して下さい。」

 遠隔操作なんてことが可能なのは近接し、かつ、ごく小さいダンジョンのみ。しかも操作される側のダンジョンにそれを承認する者、つまり知能のあるダンジョンマスターか何かが居ないといけない。

「はい。お願いします。」

「今の穴地獄、第一層群は東西2町(200m)・南北半町(50m)程ですが、これを少し東の低い方へ延ばし5町(500m)程に拡張します。一番下流には小さい滝を作って水を下流の層群に落とします。設定準備が出来ましたので、クニさん、『承認』をお願いしますね。」

「はい。これ、コケを増やさないといけませんか。」

「それは後々でかまいません。ダンジョンの機能で殖えるものでもありませんし、ダンジョンは生育環境を整えることしか出来ません。」

 図書館都市ダンジョンでも、播かぬ種は生えぬ。であり、生物の扱いは何かと面倒が多い。


「そして、その東側、わたしの転送陣に近い側、穴地獄よりも低い場所に第二層群:群馬鉄山。鉄鉱石を作る層群です。最初の大きさは東西半里(2km)南北2町(200m)程にしましょう。300万t程度の鉄鉱石を埋蔵できます。」

「鉄鉱石ですか。でも、300万とん、は分かりませんが、層群を満たすだけ貯めるには1万年くらい必要ではないのですか。」

「8億貫。ですが、ダンジョンの機能で取り寄せる場合は、ダンジョンエネルギーさえ有ればすぐですよ。もちろん取り寄せられる物は限られますが。」

「ここでは水と石だけです。」

「それで十分ですよ。その石が鉄鉱石です。」


「近代文明には大量の鉄が必要ですが、その鉄鉱石を運び出すのが第三層群:太子(おおし)駅です。異世界では鉱山から少し離れた鉄道駅で、駅まで索道(ロープウェイ)で鉱石を運んでいましたが、今回は鉱山の隣に設置し、標高差で直接ホッパー棟に鉄鉱石を送り込みます。」

 ホッパー棟は長さ100m程度で下に線路が2本あり、鉄鉱石を貨車に積み込むことが出来る。当然現役当時の姿で複製召喚。

「それで、駅から貨物列車で出荷するのですか。」

「最初は、移動図書館を改造したトラックを使って鉄鉱石をわたしのダンジョンに運び込み、転流で鉄を運んで必要な場所で鉄製品を生成しますが、効率が悪いという問題がありますね。」

「効率が悪いのは良くありません。」

「今後鉄鉱石の生産が増えるとエネルギー効率だけ考えるのなら鉱山鉄道が得になります。図書館都市ダンジョンに鉄道はありませんが、貨物のみとして、かつ規則で撮影禁止にしておけば鉄道の悪影響も最小限で済むと期待したいですね。」

「マリーさ……ん、『鉄道の悪影響』ですか。」

「鉄道には『自由』が無く、決まった線路を決まった時刻表に従って運行されるため、人の精神に深刻な悪影響を与えます。工業国では共産主義の温床となり、植民地では抑圧と搾取の道具になります。さらに、社会性が失われる、知能が低下する、暴力性が増す、挙げ句に犯罪まで誘発すると言った問題も起きるため、図書館都市ダンジョンでは多少の不利は承知で、あえて鉄道を使っていません。ただ、長距離大量の貨物と、密度が高い都市の旅客には有用ではあり、自由を重視する(異世界の)アメリカ人もそういう用途には鉄道を使っています。」

「つまり、有用ではあるけど極めて副作用が大きい、文明にとっての麻薬みたいなものですか。怖いです。」

 なお、図書館都市ダンジョンは明確な高密度の中心を持つという、きわめて鉄道向きの構造をしてる。

「わたしが決めるのは、鉄鉱石を運ぶ。ということだけで、将来製鉄所が完成したら、どうやって、どれだけの量を運ぶか。というのは商人が決めますから、そのうち誰かが何か鉄道より良い方法を思いつくと期待しましょう。鉄道という結論になっても悪いのはその人です。」

「誰かが、ですか?」

「わたしの頭は1つしかありませんからね。70万人も住んでいる人間牧場では、細かいことまで決めるのはわたしの手に余りますし、かえって非効率や失敗の元になります。社会生活の基盤、『インフラストラクチャー』と言いますが、そのなかでも基本の部分だけはダンジョンで用意して、あとは住民に任せた方が良いのです。」

 私塾とか無免許の病院とか(この世界では医者に免許は不要)、交通機関でも廻船などはインフラストラクチャーではあるが公共施設では無い。


「次に、第四層群:元山の町。鉄鉱石を掘り出して集める人達が住む場所で、仕事に便利なように、かつ今後鉄山を広げでも移動させなくて良いように鉄山の北側に隣接させます。これは、ある種の簡易人間牧場です。人間牧場は分かりますね。」

「はい。ダンジョンには人の感情と生命が必要なので、ダンジョン内に町を作ることです。」

「その通り。人の中でも修羅や畜生より人間が良く殖えるので人間牧場と言いますが、鉱山労働なら畜生、特に牛馬など力のある種族を多めに募集すると良いでしょう。閉鎖系、つまり外部と人や食料の出入りが無い場合は、いずれ人間が増えすぎて破綻しますが、鉱山は開放系なのでその点は対応可能です。」

「え~と、増えた人に鉱山の仕事が無い時は、冒険者にでもなってもらって、出て行って貰う。ですか。」

「合格です。仕事を減らして辞めて貰う場合は不満が出ますが、仕事は同じ数あるのに人が増えた場合は、住民さんは納得します。もちろん、出ていく場所がある。というのが前提ですが。それで、家以外に何が必要でしょうか。」

「衣食住ですから、商店・食堂・宿屋。あと、役所に学校や病院も必要でしょうか。」

「よくできました。学校(入山小学校元山分校)や神社は最初からあるので、ほかの必要な施設用の場所を人が住む前に用意しないといけません。あとは、ちゃんと交通手段を用意しておけば、商人が勝手に店などを作るでしょう。」

 鉱山都市と言っても、全ての施設を鉱山会社が直営で運営する必要は無い。


「次に、第五層群:熊倉の村。村があり野菜を栽培する層群で、古代の廃村跡に作ります。米は図書館都市ダンジョンから運べば良いですが、新鮮な野菜は地元で確保出来た方が良いでしょう。場所は鉱山町の北側にします。なお、異世界では、さらに東に学校があるのですが、群馬鉄山とは無関係ですし、私学なので複製召喚出来ません。また、異世界の群馬鉄山は隣に水力発電所がありますが、この世界では水が無いので発電出来ません。層群は以上となります。」

「これが、私のダンジョンなのですね……。」


「最期に、ダンジョン『影響圏』をさらに東へ拡張し、図書館都市ダンジョンの影響圏に接する場所まで広げます。規格を合わせた転送陣を元山まで繋げれば移動は楽になりますし、ダンジョンに住まわせた住民に必要な電力も供給出来ます。」

 図書館都市ダンジョンはコアから給電されるが、穴地獄が産するのは強酸性の温泉と鉄鉱石だけで、電気は得られない。

「でんりょく? ですか?」

「これからの時代、町や村は電気で動きます。異世界では鉄だって原子炉で精錬されますが、この世界には原子炉が無いので、今は鉄鉱石からダンジョンの機能で鉄を作ります。いずれは原子炉を作る予定ですが何年か先でしょうね。」

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