346:群馬鉄山ダンジョン(入門編)
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「想定以上に良い結果ですね。即座に騎士団を派遣、穴地獄を制圧……いえ、保護します。あと死刑囚……なんて居ないね。こういう時のために進入した餓鬼の間諜でも見つけて保管しておくべきでしたね。」
「マリーさん、餓鬼、ですか。」
「餓鬼は餌無しでも長時間仮死状態で生きているので、倉庫にでも積んでおいて必要な時に破壊できます。そうだ、筑波や粟が呼び込んだ餓鬼が埋まったままになっていないか至急確認。居なければ、最悪奴隷狩りでも……は、さすがに駄目ですね。甲に難癖付けて城の石垣になっている餓鬼を……何か、どんどん邪道の方に考えが行ってしまいそうです。」
マリーは良くも悪くも「想定外の事態」には弱い。なお、甲では餓鬼は城、餓鬼は石垣。と言うが、別に平時から積み上げている訳では無い。
「即座に生贄を必要とする規模でも無いだろうし、それこそ日本駄右衛門か、その手下を捕まえてからで良いのでは。」
「ダンジョンの存続なら十分猶予はあるでしょうが、鉄を量産するには生贄が必要でしょう。騎士団が通信機を持ち込んだら、即座に会談を試みます。電話の基地局でもあれば、あらかじめ冒険者に電話を持たせておけるのですが、図書館の屋根に乗っているような基地局では通話可能距離は短いので、影響圏の端から10km以上離れた穴地獄まで電波が届きません。」
早口でまくし立てるマリー。
【毛の国・穴地獄】
「ロスマリヌス・オフィキナリス・紫蘇図書頭・マリーです。図書館都市ダンジョンを代表して挨拶します。入山クニさん、これからよろしくお願いします。」
マリーは世界樹の根元に腰掛け通信機越しに挨拶する。身長はこの世界では高い163cm。夏も近いため、白の半袖シャツに鮮やかな青の膝下スカート。青い金属光沢(構造色)の黒髪は散髪時期なので短く襟くらい。ローズマリーの葉が生えた髪飾りを後頭部に斜めに留めている。
「ソレノストーマ・ブルカニコーラ・入山クニと言います。穴地獄の茶蕾苔修羅です。」
こちらは身長140cm程度と小柄。あまり服を持っていないため、いつもの和服に袴の女学生スタイル。鮮やかな蛍光緑の髪は腰まであり、頭に大きい明るい赤色のリボンを付けてる。
ちなみに、マリーは数え4歳だが、クニは少なくとも数十歳以上の模様。
「それで、まず確認事項だけど、一番大切なのはダンジョンコアという、直径6尺か7尺、重さ8貫か9貫くらいの鉄球。これを奪われたり破壊されたら駄目です。なので、侵入が困難な場所に保管しないといけません。」
「マリー様、それは大丈夫です。酸の泉の底の土の中に埋めてあります。」
「あ~、わたし達は対等なので、様は要りませんよ。それだと大がかりに浚渫されると危ないから、後で自衛方法を考えましょう。」
そもそも図書館都市ダンジョンに他のダンジョンを隷属させる機能は無い。ごく小さいダンジョンなら、相手が同意するなど限られた条件でのみ一定の操作は可能だが。
「はい、マリーさま……さん。」
「それで、まず、ダンジョンと言う物は……あ~、騎士団の皆さんは休憩して下さい。仕事はダンジョンにエネルギーを与えることなので、侵入者でも来ない限りは待機です。影響圏を少し広げて貰ったら、家付きの層群が召喚出来ないか試してみて、無理なら第二陣に仮設住宅を搬入させます。そして、ここからは私とクニさんだけの内密の話にします。ダンジョンの機密に関わる事ですから、万が一騎士団の誰かが記憶を読み取る怪物にでも捕まったりしたら大変な事になります。」
マリーは騎士団に待機を命じ、入山クニにダンジョンについて説明し……。
「え~と、クニさんは、マスター兼モンスターみたいな立場で、かつダンジョンモンスター、怪物は一切召喚出来ない。ということですか。」
「私、駄目な下等植物ですみません。」
「ダンジョンと言うのは多様ですから、持っている力はダンジョンにより異なり、どれが優れていてどれが劣っているなんてことはありませんよ。クニさんも修羅なら自分が一番有能と思っていれば良いのです。わたしは、下品で腐っている蘭科とか、頭にヒマワリが咲いているような菊科とかを高等植物とは思いません。」
修羅の多くは生まれつき差別主義者なので「修羅道」と言う。もちろん例外はあるが、蘭修羅は概ね巨大な「オルキス」を持ち、菊修羅は「頭花」と言い、時期によっては頭にヒマワリの(ような)花が咲いている。
「はい。頑張ります。」