339:商都梅田の事情
商都梅田は、津の国主「摂津職」が居る国府から1里も離れていない。地上と地表面近くの地下に広がる第一層群は直径1kmを越え図書館都市ダンジョンより大型。これに対し、影響圏は直径2~3kmと大規模ダンジョンとしては狭い。また、既に周辺に複数の町があるため拡張も出来ない。
建物は、この世界で一般的な江戸時代風に加え、明治・大正時代風に見えるものも多い。ダンジョン本体の見た目は昭和初期風だが、駅の配置や地下街の煩雑さは各時代の混成で、世界によっては存在しない物も無理矢理押し込まれているため、酷く迷宮化している。
技術的には「大大阪」時代の1920年代頃。第二層群など下の層群には時代の合わない超高層ビルもあるが、その時代の品物は召喚出来ない。
【商都梅田・第一層群・百貨店8階】
大店の旦那達が大食堂でソーライス(ソースをかけた白飯)を食べながら会談している。ダンジョンは駅備品しか召喚出来ないため、米もソースもこの世界で作られた物。
「また、身終のアホ松が何か言ってきているが。」
「そんなの放っておけばよろしい。三関を抜くことは不可能や。さらに逢坂関かてある。身終の松下から大餓鬼まで50里、さらに不破関まで30里。相手に電車は無いさかい、歩いたら8日は必要や。逆に、こっちは不破関まで160里言うても、120里までダンジョンの機能で電車を走らせることが出来、そっからも線路引っ張っとるから2日で着く。」
商都梅田は四方に既存の村があるため影響圏は拡張できないが、影響圏かどうかに関わらず120里(つまり100リーグ・482.8km)まで鉄道を引くことが出来る。ただし、複製召喚可能なのは大正末から昭和初期の「大大阪」時代に大阪の鉄道に所属した品物のみ。という制約があり、鉄道省の機関車等は国の物で大阪に所属しないため複製召喚出来ない。また、石炭が供給できないため、SLは鉄屑。
「逆に、身終や黍へ攻めるのも困難ですが。」
「電気っちゅうのは、長距離だとだんだん弱まって行きよるから、いくら線路を引いても電車は動かへん。」
「東の名前が無いダンジョンが、アホ松に加担したら危険では無いか。」
「報告は受けとる。転送陣を縦では無く横の移動に使とる。ちゅうて。そやけど、転送陣というのは、単なるダンジョンの普遍的な機能や。電車でも持っとったら一定の警戒せなあかんけど、文明開化以前やろ。そもそも遠すぎる。」
「ダンジョン機能なら、石の神殿アスカのように一定の警戒は必要ですが、離れれば重大な危険ではありませんな。」
「そや。どないに危険なダンジョンかて、よっぽど変な固有法則でも持っとらへん限りは、120里離れれば安心や。その東のダンジョンかて、地図やと120里より大きく見えるけど、実際には120里やろ。地図自体があんまし正確やあらへん。黍ならともかく、武蔵が畿内5国より広いとは思えへん。」
もちろん、マリー達は知らないが、商都梅田が複製召喚可能なのは、1920年代あたりの「大大阪」時代に大阪の鉄道に所属した物のみ。このため、昭和初期に存在していても飛行機や戦艦などは入手出来ない。仮に召喚出来たところで燃料が無いが。マリーは商都梅田の技術水準を過大に見ており、一方商都梅田の商人達は図書館都市ダンジョンを江戸時代水準と判断している。