337:まず、身終(みのおわり)への道を
【第三層群屋上庭園】
「異世界と地形が異なる影響か、身終への最短経路は武蔵から西へ延びる街道となります。秩父の奥から諏訪の北を通り、科の国・伊那谷の南端にある飯田から、身終東端の中津となります。」
「中津川ではなく中津?」
「砂漠なので川はありませんし、町は『中津』とのことです。異世界の中津川に相当するのか、九州の中津なのかは分かりませんが。」
「高崎山が高崎にあったり、この世界、どうも地名に引きずられる傾向があるからな。九州なのかも。」
「それで、ダンジョン影響圏の端まで転送陣を延長します。影響圏の端から飯田まで約130kmありますが、ダンジョン構造物は使用できず、コンクリートもまだ無いため、順次砂利道を整備します。影響圏端のサイタマイルタワーの視界内ですから、自動運転は可能です。ただ、それでも道が悪いのでいろいろと問題は生じると思われます。」
「四駆が必要か。」
「十分に砂利を転圧すれば、あまり速度を出さないなら普通の自動車でも大丈夫です。ですが、不整地には四輪駆動というだけでは向きません。水道局や消防署で使われている、本格的オフロード車なら性能は十分ですが、図書館の公用車に転用されているのがあるかどうか。そして電気自動車にそういうものがあるか。が問題です。現状、炭化水素燃料は入手出来ませんから。」
「次に、飯田から中津は推定160km程度ですが峠越えのため5~6日必要とのことです。電波が届かないので自動運転は出来ませんし、手動運転は危険です。わたしも一応はマニュアル車免許を持っていますが、技能は伴いませんからね。」
「山道なのか。」
「一部は石畳とのことですが、いずれにせよ自動車どころか大八車にすら向きません。」
「峠だと砂利道は傷むから向かないか。」
「はい。それに、どうやら中津は身終中心部への直線方向からは外れている模様です。将来的にはローマ街道のようにできるだけ直線で道を引く方が良いでしょう。幸い、異世界の愛知や長野ほど険しい山岳地帯ということはなさそうです。」
「中津から身終の中心である山本までは600km程度の模様です。徒歩は15~20日。大八車ではもっと時間がかかるとのことです。」
「つまり、飯田まで転送陣と車で1日、山本まで最低20日か。」
「その程度でしょうね。身終そのものがダンジョン。なんてことは無さそうですし、転送陣は無いでしょう。あと、山本から熱田・大餓鬼・井口・蓑鴨・蟹・朱鷺といった主要都市への街道脇には、『輪形石』という溝が掘られた石が敷き詰められ、大八車に加えて牛車という牛頭が曳く荷車が使用されているそうです。」
「牛ではなく牛頭なのか。美濃だけにミノタウロスと。」
「異世界でも愛知や静岡は極端に牛馬が少なく、埼玉や福井・石川同様、ほぼ人力で田畑を耕していた地域です。ダンジョンだと、ただの動物は『無駄飯ぐらい』なのですが、異世界の尾張でどういう理由があったのかは知りません。ただ、身終でも山の方にはいくらか牛は居ますから、牛に曳かせることもあるそうです。」
ダンジョンは人の感情と生命をエネルギー源とするが、知的生命体では無いただの動植物からはエネルギーは得られない。
「鉄道ならぬ石道だな。」
「あるいは、商都梅田を参考にしたのかもしれません。あのダンジョンは本質が『駅』ですから、おそらく切符のみならず線路や電車も召喚可能でしょう。レールならダンジョン影響圏外でも使えそうに見えますが、どうやら身終まで線路は引かれていなさそうです。」
「やっぱり石なんだな。」
「産業革命以前は鉄の量産は困難ですから、この世界でも鉄は貴重なのでしょうね。それにこの世界、どうやら鉄鉱石はダンジョン以外には無さそうです。砂鉄なら自然に集まったものがありますが、あまり量が揃いません。」
大抵の鉄鉱石は微生物により生成される。砂鉄は花崗岩など岩石中の鉄を含む鉱物が風化の過程で溜まったもの。




