326:知識は力なり(ミントとの打ち合わせ5)
【第三層群・管制室】
「先ほどの技術開発の話ですが、このダンジョンの知識にも限界はあります。複数の異世界から技術資料を入手出来るので『いいとこ取り』すれば21世紀末か22世紀頭程度の技術は入手可能と思われます。ですが、既存の知識には限界がありますから、その先へ進む体制が必要です。」
「しかし、研究開発は膨大な資金を要するし、そもそも、この世界では人材が入手できないぞ。」
「ミント、わたし達は何です?」
「は? ダンジョンの名前付きモンスター?」
「それなら、そこらのダンジョンの決戦防衛兵器の龍などと違いはありません。」
「紫蘇(修羅)、紫蘇科の修羅。ということですか。」
「そう、この世界には修羅が居るじゃないですか。蘭ファミリーは自称「高等種族」、菊ファミリーは自称「最も進化し、最も分化している一族」。普段偉そうに言っていながら、異世界の人間以下なんて、神様仏様が許してもわたしは認めません。」
「工場の工員も、まず修羅から育成を始めているが、科学者も修羅から?」
「人材育成を最大限に急ぐため、年齢主義・学年制ではなく、課程主義・単位制としているため、結果として平均すると修羅の方が勉強が進んでいるだけで、別に人間でも優秀な人は居ますよ。畜生はどうも勉強が遅れているようですが。」
「半分動物だからなぁ。」
直球の差別発言をするミント。
「異世界では小学校から実業学校まで11年、大学まで16年必要です。ですが、既に読み書き等が出来れば3年程度は省略できるでしょうし、一定の知識を持っていればさらに短縮可能でしょう。例えば柿(修羅)の医者が居ますが、彼ら? 彼女ら? なら2年くらいで医師免許を取得できるでしょう。この世界医者に免許は必要ありませんが、ダンジョンの免許があると言うことは一定の知識と技能を証明することになります。」
柿は雌雄同体。
「まずは、複製召喚コストの安い大学キャンパスを用意し、数年後にある程度人数とダンジョンエネルギーが溜まったら帝大を1つか2つ召喚。でしょうか。『今』のために必要な工場の建設と『未来』のための大学と、並行作業になりますが。」
「工場も建物の鉄骨程度なら形状も組成も単純なので、ダンジョン構造物で作成出来るが、機械はそうは行かないから難しい。」
「分冊百科の3Dプリンターと卓上NC旋盤で順番に機械を作っていくしかありませんからね。『機械を作る機械』を揃えるのが第一歩です。その次は鉄など素材の入手です。鉄骨造の建物でも複製召喚してから解体して転用しても良いのですが、将来的には鉱山が欲しくなるでしょう。」
「この世界、鉱石もダンジョン産だが、はたして鉱山があるか。サド金山は鉱石から金を産している訳では無いし。」
「ダンジョンエネルギーを潤沢に投入すれば、図書館の備品、事務機でも公用車でも何でも良いですが、これらからダンジョン構造物として金属などを分離し、その後解除することで資源として転用することは可能ですが、効率は悪いですね。ちなみに携帯電話が500台か1,000台あれば、小判1枚を偽造可能です。」
「金なら普通に地金で売れば良い。」
「でも、将来、大々的に機械を生産することを考えると、売らずに保管しておく方が良いでしょうね。あと、この世界、もし毛の国に群馬鉄山や足尾銅山がダンジョンとして存在し、飼い慣らすことが出来たなら鉄や銅を入手出来ますが、可能かどうか。」
「でも、さほど大規模な鉱山では無いだろう。」
「累積産出量は群馬鉄山が1,100万t、足尾銅山が80万t。異世界日本の需要で言うなら、鉄が1ヶ月分あまり、銅が1年分足らずですが、理論的にはダンジョンは育成が可能ですからね。」
【第三層群・管制室】
「まとめると、まず移民対策は……。」
マリーは協議事項を画面に書き込んでいく。